【公演レポート】坂口修一が語りで立ち上げる“雪の日の不思議な出来事”乙一「ホワイト・ステップ」
「MPAD2024」2日目となる昨日11月14日に、土橋淳志×坂口修一による乙一「ホワイト・ステップ」が三重・radi cafe apartmentにて開催された。 【画像】土橋淳志×坂口修一による乙一「ホワイト・ステップ」の会場、radi cafe apartment。(撮影:松原豊)(他18件) 2011年に始まった「MPAD」は三重県内の飲食店・寺院を会場に、料理と俳優の身体を通じて名作・古典のリーディング公演を楽しめる企画。「ホワイト・ステップ」は、降雪したお正月の不思議な出来事を描いた乙一の短編小説で、大阪を拠点に活動するA級MissingLink・土橋の演出、坂口の出演、赤星マサノリのオープニング映像により朗読劇として立ち上げられた。 会場となったのは、近鉄四日市駅近くの商店街一角にある、radi cafe apartment。R加工された壁、オレンジがかった照明が、店内を温かな雰囲気で包み込む。この日の1皿目は、野菜のキッシュとパテドカンパーニュでスタートした。卵とチーズのまろやかな風味が印象的なキッシュ、スパイスが効いたパテドカンパーニュ、ふんわり柔らかな味わいのハムと、3品のバランスがいい。続けてサーブされたのはサーモンの紅、バジルソースの緑が目にも楽しいサーモンのバジルソース。下味が染み込んだサーモンはほろっとした柔らかさがあり、添えられた薄味のポテトサラダがさらに味わいを広げる。最後に提供された低温熟成さくらポークのローストは箸で切れる柔らかさで、粒マスタードとオニオンソースを乗せて頬張ると食感も楽しい一皿だった。店の雰囲気同様、ほっこりとした柔らかさ、温かみを感じさせる料理にすっかりお腹が満たされた頃、2階の朗読会場に案内された。 まずはプログラムディレクターの志賀亮史があいさつ。志賀は坂口がこれまでも「MPAD」に出演していることを伝えつつ、「これまで『MPAD』では古典を取り扱うことが多かったのですが、今年は新しい作品も取り入れてみました。その1つがこの『ホワイト・ステップ』です」と作品について紹介した。 続いてアクティングエリアに現れた坂口は、本を手に、大学院生・近藤の物語を立ち上げていく。友達が恋人と楽しく過ごす中、アパートで1人、テレビを見ながら年越しを迎える近藤。コンビニへ買い物に出ようと外へ出ると、辺りは一面の雪だった。誰もいない雪の街。しかし、姿は見えないのに、雪面に足跡が現れることに気づいた近藤は、並行世界について思いを巡らせ……。 近藤と並行世界のほのかが雪面で繰り広げる文字のやり取りは、映像を用いて表現された。坂口の愛嬌ある語り口や客席を巻き込んだ展開に観客は笑いで応え、終演する頃には多くの観客が作品と坂口の魅力の虜になっていた。 「MPAD2024」は11月22日まで行われ、このあと百景社、西本浩明、田中遊×広田ゆうみ、林英世が出演する。 ■ MPAD2024 2024年11月13日(水)~22日(金) 三重県 各所 □ スタッフ うさぎ庵 太宰治「メリイクリスマス」 作:太宰治 演出:工藤千夏 乙一「ホワイト・ステップ」 原作:乙一「ホワイト・ステップ」(集英社文庫「箱庭図書館」所収)(c)乙一/集英社 演出:土橋淳志 百景社 プーシキン「スペードの女王」 作:プーシキン 演出:志賀亮史 横光利一「機械」 作:横光利一 演出:西本浩明 太安万侶編「耳で楽しむ古事記」 編纂:太安万侶 現代語訳:橘雪子 川上弘美「海馬」 作:川上弘美「海馬」(文春文庫「龍宮」所収) 演出:林英世 □ 出演 うさぎ庵 太宰治「メリイクリスマス」 大井靖彦 乙一「ホワイト・ステップ」 坂口修一 百景社 プーシキン「スペードの女王」 山本晃子 / 鬼頭愛 横光利一「機械」 西本浩明 / LAVIT 太安万侶編「耳で楽しむ古事記」 田中遊 / 広田ゆうみ 川上弘美「海馬」 林英世