「協調関係は”ガラス”のようなものだ」…集団行動をする上で全員が知るべき科学的「行動原理」
人種差別、経済格差、ジェンダーの不平等、不適切な発言への社会的制裁…。 世界ではいま、モラルに関する論争が過熱している。「遠い国のかわいそうな人たち」には限りなく優しいのに、ちょっと目立つ身近な他者は徹底的に叩き、モラルに反する著名人を厳しく罰する私たち。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ…」母の再婚相手から性的虐待を受けた女性が絶句 この分断が進む世界で、私たちはどのように「正しさ」と向き合うべきか? オランダ・ユトレヒト大学准教授であるハンノ・ザウアーが、歴史、進化生物学、統計学などのエビデンスを交えながら「善と悪」の本質をあぶりだす話題作『MORAL 善悪と道徳の人類史』(長谷川圭訳)が、日本でも刊行される。同書より、内容を一部抜粋・再編集してお届けする。 『MORAL 善悪と道徳の人類史』 連載第18回 『「どんな協力関係も理論上崩壊します」…簡単なゲームでも分かってしまう人間の「集団行動心理」』より続く
壊すのは簡単だが、修復するのは難しい
研究室で行われる極めて人工的な実験の枠組みのなかで念入りな説明を受けた被験者がとる行動を、慌ただしい日常を過ごす生身の人間にそのまま当てはめるわけにはいかないため、実験調査が現実生活をどれほど反映しているのか(専門用語で言うところの「生態学的妥当性」)という点には、つねに疑いの目を向けるべきだろう。 しかし、キャンプに行ったときに、誰か一人がみんなのための仕事をサボると、参加者全員の協力意欲が萎えるのを経験したことがある人は多いだろう。人間に対する考え方を新たにしたところで、この現象そのものは変わらない。 人間を経済学的なイデオロギーに忠実な「ホモ・エコノミクス」と想定した場合にのみ集団行動の問題が生じるという説が頻繁に語られているが、この主張は正しくないことがすでに証明されている。 したがって、協調性は磁器、ガラス、そして個人の名声と同様に、ベンジャミン・フランクリンの「壊すのは簡単だが、修復するのは難しい」物事のリストに含まれてしかるべきものだ。