27歳でこの世を去ったディーバの捨て身の愛 「Back to Black エイミーのすべて」
TOKYO FMのラジオマン・延江浩さんが音楽や映画、演劇とともに社会を語る連載「RADIO PAPA」。今回は映画「Back to Black エイミーのすべて」について。 * * * そこに行かなければ見えない人生の風景というものがある。だから人は旅をし、本を読み、映画館の暗がりを巡る。ライブや演劇もそう。見たいものは、そこにかつてあった絶対的な「愛」だったりする。 27歳でこの世を去ったディーバがいた。2011年にアルコール依存症で。イギリス・ミドルセックス州生まれのシンガー・ソングライター、エイミー・ワインハウスのことだ。 16歳で演劇学校を退学になり、音楽に目覚めた彼女は、このほど公開の伝記映画「Back to Black エイミーのすべて」でこう言っている。 「有名になりたくて音楽を作ったんじゃない。他に何をすればいいか、わからないから」 そして彼女は恋をする。音楽を作り、歌う意味を見つける。それはパブで出会った「彼=ブレイク・フィールダー・シビルへの愛」だった。 ワインハウスの楽曲はヒットチャートを上昇、そのハスキーボイスは世界中のラジオ局でオンエアされ、アルバム「Back to Black」はグラミー賞を受賞し、1600万枚以上のセールスを達成する。
しかし、彼女は大衆のために歌ったわけではなかった。 世界平和のためでもない。環境破壊を訴えるわけでもない。自分にとって大切な「男」のためだけにコックニー訛りでマイクに向かった。 愛が深まればそれだけ彼女の身体は崩れはじめる。夫はドラッグ常習者だった。そしてワインハウスも彼に教えられてドラッグに手を染める。夫は逮捕され、寂しさに耐え切れず、浴びるように酒を飲む。酒を飲みながら、「私はあなたを愛している」とステージに立つ。客席にいるはずの夫は刑務所なのに。 セルビア・ベオグラードで行われたヨーロッパツアー初日では2万の聴衆が彼女を待っていた。しかしワインハウスは現れない。1時間以上客を待たせて登場した彼女は酒に酔い、歌詞を忘れ、マイクを落とし、結果ツアーは全てキャンセルになってしまう。スキャンダラスなディーバはパパラッチに日々追われるようになる。 しかし、僕はその姿に感動した。彼女の映画にはまぎれもない「捨て身」の愛、最期まで愛に生きた彼女の人生が描かれていたから。彼女に敬意を表したのか、レディー・ガガがワインハウスのうずたかいビーハイヴヘアと太めのアイラインを真似ている。 (文・延江 浩) ※AERAオンライン限定記事
延江浩