<非鉄金属業界団体トップインタビュー/日本鉱業協会・野崎明会長>資源循環で国内製錬所の強み生かす。鉱物資源を安定確保へ
――2023年の振り返りからお願いします。 「世界各国でポストコロナの金融政策の動きが色濃く出た一年だった。非鉄金属の最大消費国である中国の経済は期待したほどの回復が見られず、非鉄需要にも力強さがなかった。また、ウクライナ問題が収束しない中で中東でも衝突が起こるなど、想定外の出来事に世界が振り回された印象もあった。当業界で言えば、世界的に重要鉱物に対する関心が高まり、日本政府も経済安全保障の観点から支援制度の拡充などに動いてくれている。昨年には広島サミットで重要鉱物のサプライチェーン強靭化に向けた行動計画が合意されたほか、国際エネルギー機関(IEA)が9月に開催した重要鉱物に関する国際会合などを通じて国際的な枠組み作りも進んだ。持続可能で責任ある資源開発とサプライチェーン構築の重要性を世界が再確認した年だった。これは将来のGX(グリーン・トランスフォーメーション)社会を見据えた布石だと理解している」 ――24年の展望は。 「世界経済、世界情勢の混乱がどう整理されていくかに注目している。政治では米国をはじめ多くの国で大統領選挙や議会選挙の予定がある。特に資源国では、そこで資源ナショナリズムと関連した動きが出るかに興味がある。また、世界経済が揺らぐ中、各国がどんな手を打つか。日本の金利政策の動向、中国の景気刺激策の効果も注視したい。米国では利上げ打ち止めと言われているが、景気後退の兆しがある中でどういう政策が打たれるかに関心がある」 ――非鉄価格と需給の動向をどうみますか。 「23年は中国の経済回復が期待外れだったこともあって非鉄価格も少し下げた。需給バランスは大きく崩れなかったが、市場心理の悪化が先行したためとみている。24年は、主要な非鉄金属のいずれも供給側がやや強いと見られていることは弱気材料かもしれない。だが、例えばパナマの大型銅鉱山で閉鎖の話が持ち上がっているように、需給バランスが大きく崩れていない中で想定外の供給障害などが起これば価格も反応しやすい状況かと思う。また、各国の経済政策の転換、あるいは中国の景気対策の効果次第で需給は大きく変わるだろう」 ――鉱物資源の安定確保に向け、政府の支援策が強化されている。 「経済安全保障推進法を含め、政府が資源確保に力を入れていることは大変ありがたい。資源獲得競争の厳しさが増す中、税制やリスクマネー供給、資源外交といった幅広い面で企業の権益獲得を支援してくれている。鉱促懇で要望していた鉱業税制(海外投資等損失準備金制度)の適用期限延長が認められたことについても関係者の尽力に感謝したい。資源外交では西村康稔前経済産業相が先頭を切って、アフリカ訪問による資源国との関係強化やIEAの重要鉱物に関する会合への出席、英国やカナダ、豪州など主要国との協力覚書締結などに積極的に動いていただいて感謝している。今後の資源開発においては資源国と消費国の互恵的な関係構築に向けて、ODAなどの政策ツールの活用という形での支援も期待され、激しさを増す資源獲得競争の中でも日本の強みを見いだしていきたい。一方、実際の案件形成においては資源外交、鉱業税制を含む財政面での支援のほか、資源開発に携わる人材の確保・育成が課題の一つだ」 ――電力問題が引き続きの課題です。 「電力多消費産業である製錬業にとって世界的に割高な日本の電力料金は国際競争でのハンデとなっており、FIT賦課金の減免措置の維持拡充を継続して求めていく。また、カーボンフットプリント(CFP)低減やGX実現の観点から非化石燃料由来の電力供給を増やすことも要望している。ただ、再エネはベースロード電源としての活用は難しいため、安全が確認された原子力発電の再稼働もぜひ進めてほしい」 ――循環型社会の構築で製錬業界が果たす役割は大きい。 「重要なのは国内製錬所の維持拡充、二次原料のサプライチェーン整備、リサイクル事業の環境整備の3点だと考える。元素が複雑に混在する二次原料からなるべく多くの資源を回収するには銅、鉛、亜鉛、ニッケルといった各製錬所間のネットワークが必要だ。将来的に資源枯渇が進む中で資源循環は世界的な課題であり、これを既存工場・設備でできることは日本の大きな強み。特に日本はこの製錬ネットワークが充実しており、これをより拡充したい。また、使用済みリチウムイオン電池(LiB)など新たな二次原料を処理するための技術開発も重要だ。二次原料は国内固有の資源と位置付け、国内で資源循環が完結する形を構築していくことが必要だと思う。二次原料のサプライチェーン整備としては、二次原料の国外流出防止と海外からの二次原料の確保が重要だ。25年にはバーゼル条約の改正で電子廃棄物の輸出手続きが煩雑化するリスクがあり、この簡素化に向けた国際的なルール作りを関係省庁と協力して取り組みたい。リサイクル事業の環境整備では、広域集荷のための制度整備や小型家電リサイクル法の運用手法の見直しなどに加え、リサイクルにはコストも必要だという認識を社会的に浸透させる必要もあると考える。赤字が続くような資源循環は持続可能ではない」 ――脱炭素の取り組みの進ちょくは。 「協会では21年にカーボンニュートラル推進委員会を設置し、学識経験者の助言も得ながら取り組みを進めている。優先テーマはリサイクル技術開発、製錬所の省エネ、LCA(ライフサイクルアセスメント)のデータ整備の3点で、特にLCAについては銅、鉛、亜鉛についてCFPの算出手法などを検討している。一方、個社でも会員各社が国の削減目標に則した目標を設定し、さまざまな取り組みを進めている。省エネと燃料転換が中心だが、グリーンイノベーション基金事業で技術開発を進める企業や、水力や地熱などの再エネ導入拡大などに取り組む企業もある。一方で将来的には革新的な技術開発も必要になると考えられるため、産官学連携でそうした取り組みも進めたい。また、製錬業は電力由来のCO2排出が大きいため、日本の電源構成改善も課題の一つだ」 ――世界的にESGを重視した資源開発・素材供給のニーズが高まっています。 「もともと鉱山や製錬はソーシャルライセンス(社会的操業許可)を得ないとできないビジネスであり、環境に配慮した開発・操業、地域貢献、ガバナンスを効かせた運営というESGは不可欠な要素だ。一方で当業界には過去の環境問題を技術力で克服してきた歴史があり、優れた環境対応技術も持っている。今後もより高いレベルで環境対応に取り組むことでESGの観点からも当業界の評価を高めたい。一方、世界に目を転じると、グリーンマイニングや低炭素銅などといった名称をアピールし、ESGを経営戦略の柱と位置付ける事業者も出てきている。この点については日本企業も遜色のない取り組みをしていると思う。海外鉱山での植林再生や、風力エネルギーを利用した鉱石輸送の実証試験、資源大手と連携してサプライチェーンの透明化やCFP算出に取り組む企業もある」 ――産学連携や人材確保・育成の取り組みについては。 「当業界では会員各社が大学での寄付講座の設置や共同研究などを積極的に行っており、産学連携に相当力を入れている業界だと認識している。これは大学での資源・製錬系講座の減少で人材確保が難しくなっていることが背景にある。一方で世の中がGX、DX(デジタル・トランスフォーメーション)という流れにあって、当業界が供給する素材や製品への期待が高まっており、それに応えるための人材をいかに育てるかは各社共通の課題だ。協会でも資源・素材学会への研究助成や優秀な学生への奨学金給付のほか、現場担当者会議や鉱業振興会の研究成果報告会などでアカデミアの方々が発表する場を設けている。さらに若年層やその保護者に対して非鉄金属の認知度を高めるため、科学技術館に展示ブースを常設しているほか、学校への出前授業や科学イベントなどにも協力している」 「半導体などでは産官学で業界の人材育成を後押しするような動きが出てきている。重要鉱物でもそうした掛け声を政策として上げてもらえると学生や保護者の見る目が変わるはず。非鉄産業は今後の社会にとって重要な産業であり、成長力のある業界だというメッセージを政策的に発信してもらえるとありがたい」(相楽 孝一)