おぎぬまXのキン肉マンレビュー【コミックス第35巻編】~熱さと寂しさの入り混じるネプチューン・メッセージ~
見返すとこの35巻、正確に言うと34巻のラストからなんですが、各話の扉ページでキン肉マンの連載開始からの名勝負が描きおろしで順番に紹介されていくという試みがなされています。そのなかで、キン肉マン対プリンス・カメハメの試合も紹介されていたのですが、まさかこれがこの衝撃の展開の伏線にもなっていたのは驚きです。 キン肉マンの思い描いた最強の相手にオメガマンが変身する。これが、バッファローマンでも悪魔将軍でもなく、プリンス・カメハメだったというのがまた面白いし、演出的にも神がかっていますよね。 戦力外通告寸前だったオメガマンをこう生かすのかという驚きに加え、追加選手をメンバーが固定されている団体戦で、こういう手段で連れてくるのかという恐るべき発想力。キン肉マンとプリンス・カメハメの師弟対決という誰も予想だにしなかった展開へとこうして物語は突き進んでいきました。 しかしカメハメは、ただキン肉マンの敵に回ったわけではありませんでした。愛弟子キン肉マンに伝えそびれていた52の関節技を含めたカメハメ殺法100手を完全伝授するために、あえて敵のフリをして現れたという流れだったのです。 しかも、ここでキン肉マンがカメハメとあらためて闘うことにはもうひとつ大きな意味があります。それはキン肉マンが過去に唯一、言い訳の余地なく完敗した相手がカメハメだったということです。これを乗り越えないまま作品が終わると、キン肉マンは消えない黒星をずっと抱えて残し続けることになる。最終回に至る前にその払拭を図るんだという、これはゆでたまご先生の最後の粋な計らいでもあったのではないでしょうか。
思えば『キン肉マン』は多くの読者に愛されている一方で、破天荒な作風を斜に構えた視点で語られがちです。ただ、僕に言わせると「こんなに綺麗に風呂敷を畳んだ作品は珍しいほどだ」と思えるくらいの緻密さがあると思うのです。 第一巻からこの作品の魅力を語らせていただきましたが、『ジャンプ』時代の最終巻となる次巻を前にそこは改めて声を大にして強調しておきたいと、このレビューシリーズを通じて僕は強く思っています!! こうして52の関節技まで会得したキン肉マン。カメハメが退場したあとにのこったオメガマンは、もはやキン肉マンの敵ではありませんでした。カメハメとの死闘のうちにネプチューンマンを失い、その果てにオメガマンも消えて、とうとう1対1の最終決戦を迎えることとなったキン肉マンとフェニックス。 彼らふたりに祈りを捧げるビビンバとの一幕もありつつ、ふたりの対決はファーストシーズンの最終巻ともいえる36巻へと続いていきます! ●『キン肉マン』4コマ ●こんな見どころにも注目! キン肉星王位争奪編も終盤戦というこのタイミングで発表された超人たちは、これまでだと次の新シリーズで大活躍していくというのがお決まりの流れでしたが...読者のみんなも薄々感じているように、この時点では『キン肉マン』にもう次のシリーズはありません。じゃあ彼らはどうなるのか。しかし道はありました。ここから10数年後、ここで発表された超人たちは『キン肉マンⅡ世』の初期を彩るメンバーとなって再び世に出ることになったのです。名前はそれぞれ変わりましたが『Ⅱ世』での彼らの活躍、未見の人にはぜひ注目してもらいたいところです! ●おぎぬまX(OGINUMA X)1988年生まれ、東京都町田市出身。漫画家、小説家。2019年第91回赤塚賞にて同賞29年ぶりとなる最高賞「入選」を獲得。21年『ジャンプSQ.』2月号より『謎尾解美の爆裂推理!!』を連載。小説家としての顔も持ち、『地下芸人』(集英社)が好評発売中。『キン肉マン』に関しては超人募集への応募超人が採用(JC67巻収録第263話)された経験も持つ筋金入りのファン。ミステリ小説シリーズ『キン肉マン 四次元殺法殺人事件』、『キン肉マン 悪魔超人熱海旅行殺人事件』が好評発売中 漫画/おぎぬまX 構成/山下貴弘 ©ゆでたまご/集英社
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