コメダ「シロノワール」はなぜ美味しい?サンマルクの決算書と比べたら納得だった
● どのようにおカネを集め、使ったか 「豚の貯金箱」に置き換えてみよう コメダHDとサンマルクHDの決算書を分析してみると、2社の戦略が全く異なっていることが分かります。まず、貸借対照表(バランスシート、BS)を「豚の貯金箱」に置き換えてみましょう。 まず、貯金箱の右側のうち純資産の割合がどれだけ高いかを見てみましょう。純資産とは、株主からの出資や、これまでの利益(税引き後)の蓄積が記されています。つまり、純資産が大きければ大きいほど「過去にしっかり利益を残してきた」といえます。 この割合を示した数値が「自己資本比率」で、日本企業の平均は約40%。50%を超えると世界標準で優良企業と評価されることが多いです。 ◆自己資本比率=(純資産)÷(総資本) コメダHDは42%と国内平均相当、サンマルクHDは61%もあり優良企業という事が分かります。 ◆もっと知りたい人向け解説 BSとは、企業がどのようにおカネを集め、どのように使っているかを表わすもの。だから、私は貯金箱に例えてみました。 BSは左右に分けると理解しやすく、主に四つの項目に注目します。 (左側) ・流動資産:1年以内に現金化する資産 ・固定資産:1年以内に現金化しない資産 (右側) ・負債: 借金などのマイナスの要素 ・純資産: 資産から負債を引いた残りの部分 ※負債は流動負債(1年以内に返済・支払期限が来る)と固定負債(1年以上)に分かれるが本稿ではまとめて負債とする BSの左側は、「会社がその時点で持っている資産の残高」が記されています。なので、豚の貯金箱の中にどんな資産がいくら残っているのかを記しました。一方、右側には資産を得るための、「資金」を「どのように調達したか」の手段が書かれています。
● 豚が締めるベルトの位置に注目! 固定資産は何を意味する? 次に、固定資産が総資産に占める割合を確認してみましょう。流動資産と固定資産の分け目で豚がベルトを締めていますね。このベルトの「位置」を見る事が非常に重要です。 コメダHDはベルトがかなり上の位置にあり、固定資産が総資産の81%を占めています。ただし、このうち建物や土地、機械を示す「有形」固定資産は128億円しかありません。では、大きな割合を占めるものは何かというと、営業債権及びその他の債権が276億円、そして「のれん」が383億円あります。 この、「のれん」が大きいのがコメダHDの財務の特徴です。コメダHDはファンドによる買収を経た後に上場したため、大きなのれんが計上されています(詳細は後述)。 固定資産とは、すぐには現金化できない資産で、使い続ける事で利益を生み出す資産です。それは、言葉を変えると、「リスク」にもなります。よって、そのリスクをいかにカバーしているかを判断する際には、固定資産と純資産の額を比較します。 純資産は借金ではないので、固定資産が純資産でまかなえていれば安心です。が、コメダHDの場合、固定資産が833億円、純資産が431億円で、固定資産が倍近くも大きくなっています。 とはいえ、コメダHDの場合は特殊な事情によるもので、心配ありません。会計上「のれん」を償却せず、のれん金額がずっと変わらない会計基準を用いているためです。 ◆もっと知りたい人向け解説 ※「のれん」とは? 「のれん」とは、企業が他社を買収した際に発生する無形資産であり、ブランド力や顧客基盤など帳簿に現れない価値を表します。コメダHDは、投資ファンドによる買収を経て株式上場する際、レバレッジド・バイ・アウト(借入金を活用した企業・事業買収)で383.5億円ののれんを計上しました。 なお、コメダが採用する国際会計基準(IFRS)と、日本基準では「のれん」の処理に大きな違いがあります。 ※なぜIFRSを採用したのか? コメダHDは、利益圧迫を避けるためにIFRSを採用しました。日本基準では、のれんは毎期償却され利益が減少しますが、IFRSでは償却がなく、代わりに毎年減損テストを実施します。これにより、通常の営業利益への影響を軽減できるのです。 業績が堅調な間は問題ありませんが、今後のれんの減損リスクが顕在化すれば、巨額の赤字を計上する可能性があります。特に喫茶店フランチャイズ事業の価値が低下すれば、その影響は大きいでしょう。