日銀植田総裁インタビュー:狙いは円安けん制と「政策反応関数」の提示か:金融政策正常化は円安・株高の強い逆風
春闘での賃金上振れが物価に与える影響に注目
4月5日付の朝日新聞は、「利上げ判断 夏から秋にも」との見出しで、植田日銀総裁の単独インタビューを掲載した。これが、同日の金融市場に大きく影響し、円高、株安が進んだ。 ここで「夏から秋」としているのは、今年の春闘での賃金の上振れが物価に与える影響を確認できる時期の目途を指している。ただし、インタビューの詳細を読むと、総裁は夏から秋の時期の追加利上げに直接言及している訳ではなく、発言と見出しとの間に乖離も感じられる。 植田総裁は、2%の物価目標達成の確度が高まることを示す経済データが得られれば、その確度の変化に応じて金利を調整していく、との考えを示している。この点から、春闘での賃金の上振れが物価に与える影響が想定以上であれば、日本銀行が比較的早期に追加利上げに動く可能性は確かにあるだろう。 他方で留意したいのは、植田総裁が「(物価上昇率が)2%を超えるリスクが目に見えて高まる可能性は、現時点では、そんなにないと思います」と明言している点だ。いわゆる政策対応が後手に回ってしまう「ビハインド・ザ・カーブ」のリスクを日本銀行は心配しておらず、追加利上げを急ぐ必要性は感じていないだろう。
円安けん制の狙いも
もう一点注目されるのは、円安についての総裁の発言だ。「為替の動向が、賃金と物価の循環に無視できない影響を与えそうだということになれば、金融政策として対応する理由になります」という発言は、かなり踏み込んだものだ。円安が追加利上げを促すことを明確に説明している。そして、こうした発言を意図してしたとすれば、それは足もとで進む円安をけん制する、「口先介入」の一種と言えるのではないか。 総裁は同日の国会でも、「為替は経済物価に影響する重要な要因」、「政府と密接に連携」、「十分注視」など、円安けん制を狙ったかのような発言をしている。
金融市場はかなり緩やかなペースの利上げを想定
マイナス金利政策解除後の日本銀行は、金融市場の期待と一致する形で、政策修正を進める考えとみられる。市場の短期金利見通しを示すオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)レートは、12か月物で0.18%である。これは、向う1年の間に1回の追加利上げがあるかどうかといった水準だ。金融市場はこのように、かなりゆっくりとした利上げを想定しているのである。 日本銀行がそうした市場の金利観に違和感を持つ場合には、それを指摘する強いメッセージを出すことで、市場の期待を修正し、市場と日本銀行の間の認識のギャップを埋めるようにするだろう。 今回のインタビューには、そこまでの意図は感じられず、日本銀行も現時点ではかなり緩やかな利上げを想定しているのではないか。