日銀植田総裁インタビュー:狙いは円安けん制と「政策反応関数」の提示か:金融政策正常化は円安・株高の強い逆風
日本銀行は「政策反応関数」を市場に提示
他方、この先も経済環境変化に応じて、金融市場の金利観も柔軟に変化していき、日本銀行の認識との間に大きなずれが生じないことを日本銀行は望んでいるだろう。そのためには、経済環境がどのように変化すれば、金融政策にどのような変化が生じるかを示す「政策反応関数」を市場に示しておくことが重要となる。今回のインタビュー記事で、日本銀行側には、円安をけん制する狙いとともに、この「政策反応関数」を市場に示す狙いがあったのではないか。 その「政策反応関数」の変数として重要なのは、第1に2%の物価目標達成の確度を示す経済データであるが、当面は、春闘での賃金の上振れが、サービス価格を中心にどの程度価格に転嫁されていくか、である。そして第2が、円安だろう。
追加利上げ時期のメインシナリオは年明けだが早まるリスクも
筆者は、春闘での賃金の上振れは、輸入物価高騰、いわゆる「輸入インフレ・ショック」の影響によるところが大きく、日本経済がそのショックを吸収して正常化していく過程の一つと考える。 仮に賃金上昇が一時的にせよ物価に顕著に転嫁されれば、実質賃金の上昇は遅れ、個人消費の弱さが続くことで、結局は企業の値上げを難しくさせてしまう、と考える。 賃金の価格転嫁がそれほど進まず、また、政府の介入の効果もあり、今後行き過ぎた円安が修正されていく場合には、金融市場の金利観に沿う形で日本銀行は追加利上げを実施していくことが見込まれる。その場合、次回の追加利上げの時期は、来年年明けになると見ておきたい。 しかし、想定以上の賃金の価格転嫁が見られ、また円安が進行する場合には、最短で今年9月の追加利上げの可能性が生じるだろう。
日銀正常化は金融市場に大きな影響力
植田総裁のインタビュー記事は、4月5日の東京市場に非常に大きな影響を与えた。1ドル152円一歩手前まで円安が進んでいたドル円レートは、一時150円台まで円高方向に押し戻された。この円高と米国株下落の影響から、日経平均株価は一時1,000円近くの大幅下落となった。 このことは、日銀の利上げ観測が、金融市場に大きな影響力を持っていることを改めて証明したものだ。この先も続く金融政策の正常化策は、金融市場で円安・株高の強い逆風を生むこととなるだろう。 木内登英(野村総合研究所 エグゼクティブ・エコノミスト) --- この記事は、NRIウェブサイトの【木内登英のGlobal Economy & Policy Insight】(https://www.nri.com/jp/knowledge/blog)に掲載されたものです。
木内 登英