パリ在住フランス人研究者が「日本語の起源」を追究する理由。文字なき時代の古(いにしえ)の姿はここまでわかった!
日本語は、大昔はどのような姿だったのか? 文献の記録がない時代はどんな発音で、どんな単語があったのか? そんな疑問に答える本が出た。それが『日本語・琉球諸語による歴史比較言語学』だ。 【書影】『日本語・琉球諸語による歴史比較言語学』 われわれが話す日本語の祖先の姿に迫る画期的な方法をまとめたこの本の著者のひとりは、なんとパリ在住のフランス人、トマ・ペラール氏。異国の言語学者が明らかにした、日本語の古の姿とは? ■日本列島にはいろいろな言語があった ――なんだか難しそうな本ですが、タイトルの「歴史比較言語学」ってなんですか?トマ・ペラール(以下、ペラール) 異なる言語どうしを比較したりすることで、言語がたどった歴史的変化を探る学問です。 その代表例が「祖語」と呼ばれる共通の祖先を復元することで、例えば英語やフランス語、ロシア語などは「印欧祖語」と呼ばれる共通の祖先から枝分かれしてできたことがわかっています。 ――日本語にもご先祖がいるんですか? ペラール はい、実は今の日本列島で話されている言葉と奄美・沖縄で話されている「琉球諸語」は、共通の祖先から分岐して進化してきたことが解明されているんです。 ――あ、奄美や沖縄の言葉って方言じゃないんですね。 ペラール 言語学ではそう考えられています。そしてかつて存在したその言葉、つまり日本語や琉球諸語の祖語を「日琉祖語」と呼びます。 大昔、例えば3000年くらい前の日本列島では、さまざまな言葉が話されていたと考えられています。でもそのうち日琉祖語だけが生き残り、今の日本語に進化したということなんですね。 ――えっ、日本にあったのは日本語だけじゃないと? ペラール そうです。これは日本列島に限りませんが、言語は生まれては消え、時には分岐して増えて、と常に変化する存在なんです。 ちょうど生物と同じですよね。新種が生まれることもあれば、絶滅する種もたくさんいる。あるいは人間とチンパンジーのように、同じ祖先から分岐して別の種になることもある。 言語も同じで、今の日本語はたまたま日琉祖語が"繁殖"して日本中で話されるようになっただけで、消滅の危機にあるアイヌ語のように、ほかにもたくさんの言語があったと推測されています。