8月8日、日向灘でマグニチュード（M）7・1の地震が発生し、初めて発表された南海トラフ地震臨時情報（巨大地震注意）。国が呼びかけた日頃からの備えの再確認でも、備蓄と並んで防災対策の基本となるのが家具の固定だ。静岡県が毎年実施している県民意識調査では、固定していない人のうち2～3割が「手間がかかる」「先延ばしにしている」と回答している。100円ショップや身近な道具を使ってできる方法を、防災士でふじのくにジュニア防災士養成講座の講師などを務める藤枝災害支援ネットワーク代表の吉田令子さん（69）に聞いた。 　藤枝市内の吉田さんの自宅。食器棚の上部3カ所はL字型金具で、棚の上段と下段は平型金具を使い、それぞれネジで固定されていた。家具固定の中でも、最も推奨されるL字型金具。「固定で使ったのは100円ショップで購入した」と吉田さん。ホームセンターや工具店に行くと大きさや種類も豊富にあるが、「どれを買っていいのか分からなかったり、種類によっては高額だったりする」。吉田さんは「まずは気軽に100円から始めてみるのがいい」と勧める。 　大型家具の固定に比べて、見落とされがちなのが食器などの飛び出しやガラスの飛散防止だ。県が臨時情報発表後に実施した県民意識調査でも、家具・家電転倒防止を「日頃から行っている」のは4割弱だったのに対し、飛散防止は2割にとどまった。 　「食器の飛び出し防止は、赤ちゃん用の開き戸安全ロックが活用できる」という。吉田さんも当初は金属のロックをネジで付けていたが食器棚の木材が硬く取り付けが難しかった。そこで思いついたのが「赤ちゃんロック」だった。最近はロックが古くなってきたため、両面テープで貼り付ける取っ手を新たに付けた。取っ手にひもを2本通し、たるまないように壁に固定したくぎにひっかけている。ひもは自転車の荷台やアウトドア用で、いずれも100円程度。食器の並べ方も工夫できる。滑り止めシートの上に、コップは伏せて置き、皿は下から「中・大・小」の順番で重ねると安定性が増すという。 　1月1日の能登半島地震でも、倒れた家具や家電に脚を挟まれたり、避難が遅れたりした事例があった。1995年の阪神大震災では、死者約6400人の1割、負傷者約4万3700人の4割強が家具転倒による被害だった。 　「やり方は工夫次第」と吉田さんは強調する。日頃から防災に活用できないかという視点でアイデアを膨らませている。100円ショップでは、金具のほかにも、突っ張り棒やガラス飛散シート、耐震マットなど防災用品の品ぞろえが豊富になった。専門用品でなくても代用できる可能性がある。「楽しみながら取り組むのがこつだ」と話した。 ■取り付け費補助、申請増加 　県住まいづくり課がまとめた「住まいづくり支援ガイド」によると、県内では35市町のうち27市町で家具転倒防止のための器具の取り付け費を補助する事業を展開している。南海トラフ地震臨時情報（巨大地震注意）の発表後は、多くの市町で申請件数が増加している。一方で、賃貸住宅で固定具のネジ穴の原状回復を求められるなどの理由で固定できない場合は、突っ張り棒を天井と家具の間に設置する方法などがある。 　県地震防災センターによると、効果が大きいのはL字型金具を下向きに取り付ける方法。天井に十分な強度があれば突っ張り棒を使うことも可能。家具の下にストッパーや耐震マットを差し込む方法と突っ張り棒を組み合わせれば効果を高められる。ストッパーなどの代替として新聞紙などを家具の下に差し込んで傾斜を付けることも可能だ。 　防災教育などに取り組むNPO法人プラス・アーツ（神戸市）は、突っ張り棒の代わりに段ボール箱の底面に粘着マットを貼って設置し、滑り止めシートを家具の下に敷く方法を紹介する。 　県地震防災センターでは、寝室には高い家具を置かないなど、配置の工夫も勧める。油井里美所長は「最善は金具留めだが、全く対策をしないよりは手軽な方法でもまずは取り組んでほしい」と呼びかけた。