「複雑すぎる世界情勢」をスパッと読み解く地政学は「学問分野ではない」という基本的事実
なぜ戦争が起きるのか? 地理的条件は世界をどう動かしてきたのか? 「そもそも」「なぜ」から根本的に問いなおす地政学の入門書『戦争の地政学』が重版を重ね、5刷のロングセラーになっている。 【写真】日本人が知らない「プーチンのヤバすぎる…」 地政学の視点から「戦争の構造」を深く読み解いてわかることとは?
地政学は「学問分野ではない」
昨今「地政学ブーム」と言えるほど地政学本が多く刊行されている。 地政学がわかれば世界がわかるのか? 激動の世界情勢をスパッと読み解けるのだろうか? 実際、地政学はそう単純でも、万能でもない。 まずは、地政学は「学問分野」ではないという事実がある。 〈「地政学」は「学」と呼ばれているにもかかわらず、学術的な研究分野だとみなされてはいない。 公刊されている多数の書籍の中で、学者が執筆したものは、非常に少ない。 「地政学」を、学部名や学科名や、授業の科目名として導入している大学はほとんど存在していない。 「地政学」は「学」と呼ぶべき一つの学問分野としては存在していない。〉(『戦争の地政学』より) 〈日本においては、第二次世界大戦の前の時期に、地政学が日本独自の関心に沿った形で、政策論で頻繁に参照された。 それが間違った形で戦争の正当化につながってしまったのではないか、という反省から、地政学とは危険な似非学問である、という理解が広まった。 今日においてもなお、地政学を正面から信奉している学者は少ない。〉(『戦争の地政学』より)
地政学との付き合い方
では、似非学問とされた過去を持ち、学問分野として存在していない地政学とは、どのように向き合えばいいのだろうか。 〈地政学に対する典型的かつ古典的な批判は、それがあまりに運命論的すぎる、というものである。 だが自由意志を働かせて環境要因に抗ったり、周囲の環境の影響を操作したり、地理的条件を変化させていくことが、人間に全くできないというわけではない。 むしろ環境要因から導き出される所与の条件を利用しながらも、なお同時に、積極的に変更していこうとする人間の営みによって、人類の歴史は作り出されてきた。 構造的要因から洞察できる傾向を把握したうえで、なお人間の世界観の違いが織りなす衝突にも注意を払っていくのが、より適切な地政学との付き合い方だ。〉(『戦争の地政学』より)