「おもしろくないなら、時間もお金もかけたくない」倍速視聴・ネタバレ視聴を駆使するZ世代特有の「テレビ」との向き合い方
Z世代はテレビを観なくなっているのか?
こうしてZ世代のコンテンツへの接し方を見ていくと、「倍速視聴やネタバレ視聴で作品を十分に堪能できるはずがない」と思われる方もいるかもしれません。ただ、Z世代は何もすべてのコンテンツでこうした観方をしているわけではありません。お気に入りの作品は何度も繰り返し視聴するなど、コンテンツを目的に応じて「戦略的」に観ています。 なかでもZ世代が多くの時間を費やすのが、「推し」(アイドルやアニメのキャラクターなどイチオシのメンバー・人物)が出演している作品です。SNSや定額動画配信サービスの発達によって「テレビを観なくなっている」と言われるZ世代ですが、推しが出ている番組が見逃し配信されていない場合もあるため、テレビをリアルタイムで観ることも珍しくありません。 Z総研が2021年8月にZ世代を対象に行なった調査では、「現在放送しているドラマを観るときはリアルタイムで観ますか」という質問に対し、「テレビでリアルタイムで観る」と答えた割合が38.9%と最も高く、続いて「無料見逃し配信で観る」が24.9%、「サブスクリプションサービスで観る」は10.0%でした(図1)。Z世代はSNSを通じて情報を収集し、推しが出ている番組を入念にチェックしてテレビを観ています。 推しが出ているドラマや映画は「ネタバレ」されないようにリアルタイムで視聴し、出演シーンを見逃し配信や録画で何度も観返します。推しが番組の一部に登場する場合は、出演時間をファン同士でSNS上で共有し、そのタイミングのみ視聴することもあります。SNSでは「推し活」(推しを応援する活動)専用のアカウントをつくり、推しが登場する場面で実況中継のように感想を投稿してファン同士で盛り上がります。推し活をきっかけに、リアルの友人に発展することもあります。 かつては、SNSのリプライやDM(ダイレクトメッセージ)などから知り合うのは危ないという風潮がありました。ただ、Z世代はネット媒体とともに成長してきた「デジタルネイティブ」ですから、ネットリテラシーにはかなり敏感です。インスタやX(旧Twitter)でやり取りをするなかで相手の性質を観察し、アカウントもチェックして、怪しい人ではないか入念に見極めます。Z世代はSNSの使い方に十分配慮したうえで、推しをきっかけに人びととつながっています。 このように「推し活」によってファン同士がつながることは、素晴らしいことだと私は捉えています。一昔前はアイドルやアニメが好きだと言うと、「一部のヲタク」「暗い」といったネガティブな印象がもたれる空気がありました。でもいまは好きなものを、自信をもって「推す」ことができる。Z世代にとって「推し」が存在することはいまや当たり前であり、そこから交流が生まれることも少なくありません。Z世代は「好きなものを好きと言える社会」を後押ししているのです。 またZ世代は、好きな作品を自身の学習にも活かしています。ネトフリでは外国語字幕と日本語字幕を同時に表示することができるため、語学力向上に使っている人もいます。お気に入りの韓国ドラマを流し、ハングル字幕と日本語字幕を画面に同時に表示する。再生速度を調整することで、習熟度に応じて学習することができます。「推し」が出演している作品なら自然と関心も高まりますから、語学の習得も早まるはずです。Z世代は作品の新たな活用法を生む可能性も秘めているのです。 ---------- 山田昌弘(やまだまさひろ) 中央大学文学部教授。1957年、東京都生まれ。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は家族社会学。「パラサイト・シングル」「格差社会」「婚活」などの言葉を世に広めたことでも知られる。著書に『希望格差社会』(筑摩書房)、『新型格差社会』『結婚不要社会』(いずれも朝日新書)、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社新書)など多数。 ---------- ---------- 道満綾香(どうまんあやか) N.D.Promotion取締役/Z総研トレンド分析担当。兵庫県出身。大学在学時に女子大生のマーケティングを目的としたTeamKJを設立し、プロデューサーを務める。大学卒業後はリクルートグループに入社。その後、スタートアップ数社でZ世代を対象としたプロモーションに従事。現在は、Z世代のプロモーションやインフルエンサーのキャスティングを行なうN.D.Promotion取締役を務め、Z世代の研究メディア「Z総研」ではトレンド分析担当。 ----------