〝テロ助長〟FBIの警告に答える「今すぐ考え、行動を」 「HOW TO BLOW UP」ダニエル・ゴールドハーバー監督
観客を刺激し倫理観を問う
メッセージ性に目を奪われがちだが、映画として緊迫感が続く。フラッシュバックを使って過去と現在を交差させ、若者たちの行動の動機を見せていく。16ミリフィルムの手持ち撮影も駆使して臨場感を盛り上げる。「政治的な思考をいわゆるハイスト(強盗もの)の見せ方で仕立て上げた」。映画作りのカギは「編集だった」。 一番難しかったのは「バランス」という。「エンタメだから、若い人たちの行動にユーモアも持たせた。政治的状況についてのディスカッションやキャラクターそれぞれの物語と全体的なスリルのバランスを取り、しかも作品の概念に見合うものでなければいけない」 もう一つ大事なことは、計画が成功し、逮捕されるまでを描いていることだ。こうした反乱、反抗を描く物語は失敗することが大半で、情熱はあっても無知で理想主義的なものとして描かれがちだ。しかし、彼らの行動は現実的で生々しい。その意図はどこにあるのか。 「8人が成功することによって、観客は彼らの行動を正当化できるか自問すると思う。それはある種の挑発にもつながる。計画が失敗したら、ハリウッドの普通の〝あるある映画〟になってしまうが、この作品は彼らに成功を手渡す。それに対して、観客の倫理的意見が問われる」。観客の反応を推察して物語を構築した。ゴールドハーバー監督の狙いは明確だ。「そうした刺激や挑発によって、思考を巡らせてもらうことがゴール」
ムーブメントを起こしたい
そもそも気候変動に関する映画をなぜ撮ったのか。ゴールドハーバー監督は気候科学者の両親の間に育ち、高校時代から映画製作を始め、ハーバード大学で映像と環境研究を学んだ。「映像で最初にかかわったドキュメンタリーが気候ものだった」と言い、今回も地球環境への危機感があった。「すでに世界中で飢餓や干ばつと、それによる過剰な暴力が発生し、これからもっとひどい状況になる」と見ている。 「僕はアーティストとして、一番反応すべきストーリー、語らなくてはいけないのは環境問題と考える。二酸化炭素排出量や化石燃料に関する問題を含めて、持続可能ではなくなる危機に面している。そういうことに目を向けたアートを作らないで、いったい何をするんだと思っている」 言葉は次第に熱を帯びてくる。「映画やアートは文化の基礎であり、我々がどう生きるかを問うものだ。1本の映画で直接何かを変えることは難しいが、ムーブメントのような形なら起こるかもしれない。ストーリーテラー、フィルムメーカーとして、そういう力を持ちうる」