漬物どころの広島県北がピンチ 食品衛生法改正で設備投資ネック ベテラン製造者の引退相次ぐ
食品衛生法の改正に伴い、広島県北の漬物どころで作るのをやめるベテラン製造者が相次いだ。販売用の漬物製造に保健所の許可が必要になり、高額な設備投資が必要になるためだ。一方、楽しみにしてくれているお客のためにと設備を整え、再出発した人たちもいる。 三次市小田幸町の農産加工グループ「プロスピー下井田」は漬物作りを断念した。冬場の「農閑期の仕事」として活動を続けて24年目。主にメンバー宅で漬けた梅干しやかす漬けを地元の農業祭などで販売してきた。 加工所もあるが、改正法の基準をクリアできていない。メンバー6人は70~80代が中心で、中村登美子さん(70)と代表の松崎真理子さん(56)は「後継者づくりが大変」と、高いコストのかかる施設改修を見送った。今後はフキノトウみそやユズのジャム、餅などの製造を続けていく予定だ。 食品衛生法の改正は、北海道で2012年に8人が亡くなった浅漬けの集団食中毒がきっかけ。21年の改正法施行後、3年間の経過措置が今年5月末に期限を迎えた。法改正で製造施設の衛生基準が厳格化。自宅とは別の専用施設で製造▽食材と手洗い用の別々のシンクが必要▽水道栓は肘などで操作できるレバー式―などが必要になった。 県北部保健所は、昨年末から年明けに管内の三次、庄原市内の小規模生産者に製造継続の意向を確認。把握できた32人のうち半数の16人が「やめる」と答えたという。 一方、同保健所で漬物製造の許可を取ったのは両市内で41件(8月30日時点)。許可には施設図面の事前相談や確認のほか、完成後の書類審査や現地確認などが要る。 同県庄原市高野町では、道の駅たかのに出荷する亀山勇さん(80)が、調理場の壁や天井をやり替えたほか、保冷庫も新しく購入した。一時はやめようかと考えたが、孫の健太さん(29)が跡継ぎ候補に名乗りを上げてくれた。 亀山さん方が出荷する漬物は10種類ほど。ダイコンのビール漬けや酢漬けは道の駅の大人気商品だ。「いつまでできるか分からんが、孫が手伝ってくれるから気分的にも助かっとるよ」と勇さん。ここ1年ほど一緒に作っている健太さんは「漬物の具を均等に切るのが難しい。味を維持していけるよう頑張っていきたい」と意気込む。
中国新聞社