【#佐藤優のシン世界地図探索㊿】世界各国の選挙戦からの怖い話
佐藤 インドネシアですね。 ――シン世界44で、佐藤さんは『アジアで留意するべきはインドネシア』と指摘されています。結果はプラボウォ国防相が勝利しました。スハルト政権では特殊部隊司令官を務め、スハルト大統領の娘と結婚しています。 佐藤 一種の開発独裁的な方向に進む形で、誰がトップになってもインドネシアが強国化していく方向性は変わりません。なので、インドネシアをちゃんとウォッチすることはすごく重要になります。 ――インドは内向きだけど、インドネシアは外向き。外に出て行くわけですよね。 佐藤 インドネシアは海洋国家ですから、外を向いていく可能性はあります。おそらく歴史の中で、初めてそんな時代に入ります。 ――それは南の隣国、オーストラリアにとって脅威になりますか? 佐藤 中長期的にはそうなります。オーストラリアの人口は減っている一方で、インドネシアの人口は2050年には3億2400万人になると予想されます。それはすなわち、イスラム世界の拡大でもありますから。 ――ウクライナ戦争の法則にあてはめると、オーストラリアは絶対にインドネシアと喧嘩してはいけないということですね。 佐藤 その通りです。喧嘩はしてはいけないし、同時に喧嘩はできません。 ――フィリピンはどうですか? 佐藤 フィリピンはインドネシアの軍門に下る可能性はかなりありますね。 ――同じく、フィリピンを「属国」にしようとしている中国はどう出てきますか? 佐藤 フィリピンは中国からちょっと遠いので、そう簡単には手を出さないでしょう。 ――南シナ海全域を中国が支配しようとしていますが、南半分をインドネシアが持っていく可能性はありますか? 佐藤 それは十分ありうるシナリオです。 ――では、次はパキスタンです。世界で一番投票する人口が多いとされる、核兵器を持つパキスタンで2月8日に行われた選挙は、ナワズ・シャリフ元首相の「イスラム教徒連盟シャリフ派(PML-N)」とビラワル・ブット前外相の「パキスタン人民党(PPP)」の2政党が連立政権樹立で合意しました。 佐藤 パキスタンは、今のままで混乱がずっと続くということでしょうね。それにあの国が核兵器保有国であることを軽視してはいけません。 ――パキスタンは核兵器をインドに対して使う可能性はありますか? 佐藤 その可能性はあります。それ以外のところで、積極的に核兵器を使うことはありません。しかし、他方でイスラムの核として、輸出される可能性はあります。核拡散の観点では怖いことですね。 ――それは怖いですね。イスラム原理主義が政権を獲ったら、そこにパキスタン製の核兵器が流れることになるのですか? 佐藤 そうなりますね。 ――筒井康隆が書いたブラックユーモア小説『アフリカの爆弾』が現実になる。あれは、アフリカの部族対立が激化して、ある部族が中古の核ミサイルを購入。その核ミサイルを担いで村まで運ぶ話。それが高度なレベルで現実化する......。 佐藤 そうです。それは本当に迫ってきているのです。 次回へ続く。次回の配信は2024年3月29日(金)予定です。 取材・文/小峯隆生