「子供がいるほうがパフォーマンスが高い」子あり男性が分析する“男同士の分断”とは #令和の親 #令和の子
子を持つ男親に、親になったことによる生活・自意識・人生観の変化を、匿名で赤裸々に独白してもらうルポルタージュ連載「ぼくたち、親になる」。聞き手は、離婚男性の匿名インタビュー集『ぼくたちの離婚』(角川新書)の著者であり、自身にも2歳の子供がいる稲田豊史氏。 【画像】根が深い?男同士の「子あり/子なし」分断 第9回は、IT企業に勤める41歳の男性。子供を持ちながら、「人類の進化」や「子あり/子なし分断の本質」に関して、思うことがあるという。
#09後編/ぼくたち、親になる
ポータルサイトを運営するIT企業で配信コンテンツの企画・制作に従事する戸部公次さん(仮名/41歳)。彼は31歳のとき、8年間交際した同い年の吉乃さん(仮名)と結婚。翌年、男の子を授かった。 吉乃さんは結婚前から老舗出版社に勤める書籍編集者で、産後は職場に復帰。共働き夫婦として現在に至る。息子さんは現在9歳だ。 出産時点で妻に対して〈性愛的な意味での愛情〉はなくなっていたという戸部さんは、以降10年近く、現在に至るまでセックスレス。ただし家庭は円満にして平穏だ。 「子供を作ってつつがなく家庭を運営しながら、パートナーへの〈性愛的な意味での愛情〉を維持することは、原理上可能なのか?」という問いに対して、欧米の事例に納得感を見いだした戸部さん。 いわく、「8歳、9歳まで母親が添い寝することもある日本と違い、子供1歳でベッドに放り込む欧米は、子供を早期に“手放す”ことによって、夫婦間の愛の交歓を維持している」──。 戸部さんの話は自分事にとどまらず、「人類の進化」や「子あり/子なし分断の本質」にまで分け入ってゆく。 ※以下、戸部さんの語り
人間のスキルが進化した
「子供ができたことで仕事に支障が出た」という男性が結構いるじゃないですか。 この連載で取り上げられた別の方(#01)は、リモートワーク時に発生する家事や育児によって「仕事の質を担保する“没入”ができなくなった」と言っていましたし、育児にリソースが割かれることで、今までのような物量で仕事をこなせないという男性の話も耳にします。 この話、すごく興味深いと思って見聞きしていました。 というのも、うちの会社のコミュニケーションのほぼ100%がSlackなんですが、ものすごい量の連絡が次々と入ってくるから、集中して何かを思考できる時間が1時間も取れないんです。 帰宅しても、休みを取っていても、構わずどんどん連絡が来る。僕はチームリーダー的な立場なので、特に量が多い。コロナ禍からずっとそうなので、もう3年(注:本取材を行ったのは2023年)もそういう生活を続けています。 で、何が起こったかというと、思考を“分割”しながら仕事ができるようになったんです。 以前なら、それなりに時間をかけないとまとまらなかった思考が、かなり短時間でまとまるようになりましたし、五月雨式のSlackで思考がズタズタに寸断されても、「邪魔された」という感覚が希薄になってきました。 適応したんですよ。体が。脳が。その状況に。うちの会社だけじゃないと思います。世界中の人間のスキルが「進化」した気がしてならない。 それこそ、稲田さん(本連載のインタビュアー)の本『映画を早送りで観る人たち』で書かれている倍速視聴と同じですよ。ある種の人たちの感覚が倍速に適応した結果、それで映画やドラマを観てもなんら支障ないようになった。 昔で言えば、PCの画面上にいくつものアプリを同時に立ち上げる「マルチタスク」についていけないおじさんがいたじゃないですか。今はそんなの普通ですけど、それって人間のスキルが進化したからでしょう。マルチタスクという状況に、人間のほうが適応した。 もちろん、思考が分割されても支障がないタイプの仕事と、支障を来たすタイプの仕事があると思います。ただ僕に関して言えば、「新たなスキルを習得した」くらいの感覚はありますし、部下の中には、リモート勤務で隙間時間に育児をしながら仕事をきっちりこなしている30歳の女性もいます。