トランプが目論むNAFTA見直し 「保護主義」でアメリカが払う代償は?
結果的に損害を受けるのは米国民?
トランプ大統領の経済政策は、基本的にはトランプが重要だと思い込んでいる自動車などの一部の既存産業の経営状態の向上を目指すものである。見方を変えれば、彼がその重要性を明確に認識しているわけではない分野については焦点が当てられていないということであり、イノベーションの可能性を持つ新規産業に資源が投入される気配はない。 トランプ政権は、アメリカ国内で製品を作らせ、アメリカ国民を雇用するよう主張している。しかし、それは最適なサプライチェーン(製品やサービスが消費者に届くまでの全行程)から離れて経営効率を損ねることを意味するので、企業には長期的には損失をもたらすし、アメリカの消費者には割高な価格でものを購入するよう強いることを意味する。消費者が豊かな生活を送ることができるのは、安価な商品が貿易を通して供給されるからである。 今日のアメリカのGDPに占める割合は、サービス業が8割程度で、製造業は20%を下回っている。比較劣位にある産業を利するために、アメリカの消費者に多くの負担を求めるのが妥当か否かは、検討されてもよい課題だろう。 トランプ政権はTPPから離脱し、NAFTAを見直すとは言うものの、その先にあるべきビジョンを持っていないように思われる。いうなれば、アメリカがもうかるようにしたいという願望を示しているにすぎない。アメリカが具体的な目標なくひとり相撲を続けている間に、環境や労働基準、知的所有権保護などの点で問題を抱える中国がこれを好機とみてさまざまな国や地域に働きかけを行うようになるのは目に見えている。国際公共財を提供し、世界のあるべき姿を提示する能力をアメリカが失うことが、アメリカにとって最大の損失だと言わざるを得ないだろう。 もっとも、2月に行われた首脳会談の結果、マイク・ペンス副大統領と麻生太郎副総理兼財務大臣の間で経済対話の枠組みを作ることが合意された。これは、トランプ大統領の思い付きとは異なる次元で通商交渉が行われるようになる可能性を示唆しているともいえる。このルートでどのような交渉がなされるかはわからないものの、二国間交渉は日本にとってもタフなものとなるだろう。この行方に注目することが必要である。
------------------------------------ ■西山隆行(にしやま・たかゆき) 成蹊大学教授。東京大学大学院法学政治学研究科博士課程修了、博士(法学)。甲南大学教授を経て現職。主著に『移民大国アメリカ』(筑摩書房、2016年)、『アメリカ政治』(三修社、2014年)、『アメリカ型福祉国家と都市政治』(東京大学出版会、2008年)など