フリーアナウンサー・神田愛花『中学受験がもたらした、フツーじゃない刺激』
この冬も多くの学生さんたちが、明るい将来を目指して受験をした。私は、小学校、中学校、大学と3度の受験を経験。どれも沢山の思い出があるが、今回は中学受験のお話をしたい。 【画像】個性あふれる神田愛花さんの直筆イラスト(1回~44回)はこちら 私は小学校受験に失敗し、通いたくもない地元の公立校に通った。そのため、中学受験は6年越しのリベンジを果たす、大切な受験だった。 学習塾は「N」マークの日能研へ。毎週末に行われるテストの成績で、翌週の座席が決まるシステムに惹かれた。成績が良ければ前方、悪ければ後方の席になる。周りとはレベルが違う執念で通塾していた私は、(なんとしても前の席に座るんだ!)と燃えて、勉強に身が入った。 だが実は複雑で……。1ヵ月間・計4回すべてのテストで成績が良いと、翌月は1つ上のクラスに移動する。「おめでとう!」なのだが、私にとってはおめでたくない。7クラス中、上から2番目のクラスにいることが多かった私。授業の難易度も、周りから得る情報も、自分にちょうど良かった。1つ上になると、授業の難易度や志望校のレベルが違い過ぎて、周りの情報も私には無意味。おまけに、翌月は下のクラスに落ちるかも……という恐怖も付き纏(まと)う。そんなの嫌だ。 なので、上のクラスに上がらない範囲で、前の席に座れる点数を取ることが求められた。 これが、まるでゲームをしているようで面白かった。その上、小学校では味わえない衝撃的な出来事が次々と起こる。 ムードメーカー的な存在の男の子が、ある日「先生にチョークを投げよう」と提案した。私は怖くて見ているだけだったが、自分の頭の横をチョークがビュッと通り抜け、目の前の先生にバシッと当たった瞬間、とんでもない刺激として脳裏に刻まれた。先生はその子たちを捕まえようとするが、彼らは机の上に登りぴょんぴょんと机を渡りながら逃げる。それを防犯カメラで確認した塾長が、放送で「やめなさい!」と怒鳴っていた。 またある日は、当時公衆電話の横に貼り付けられていた″ダイヤルQ2″の広告が回ってきた。ムードメーカー君曰く、「ここに電話すると女性の変な声が聞こえるよ!」とのこと。(触れてはいけない紙を手にしちゃった)と怖くなったが、小6ですでにジャーナリズム魂を持ち合わせていた私。真相を確かめるべく、公衆電話が並ぶ最寄り駅にムードメーカー君と移動し、電話をかけてみた。すると、「あっは~ん♡ うっふ~ん♡」という女性のいやらしい声が聞こえ(ダメだ、禁断の世界だ!!)と、驚いて受話器を耳から離した。そして「この先はお金を入れてください」という音声が流れてハッと我に返り、慌てて電話を切った。当然両親には話せず、初めて大きな隠しごとをした罪悪感で、その夜は眠れなかった。 ◆同志たちの行方 塾でこんな刺激を受けた翌日は小学校での「昨日のあのアニメ見た?」とか「この文房具、可愛いね!」という会話に、ウンザリした。つまらなかったのだ。私はいつの間にか、小学校の友達とはほとんど話さなくなっていた。その状態で卒業したせいで、後々誰かと連絡を取ったことも、同窓会に誘われたこともない。 そしていよいよ中学受験。私を含め、塾の子たちは全員、志望校に合格した。小学校とは違い、卒業アルバムも連絡名簿もない。今後再会することはないだろうが、悪さをしながらも共に一生懸命勉強した同志たち。目標達成後は解散となり、バラバラの制服を着て、それぞれ知らない土地の学校に通う。そしてまた6年後、大学受験でライバルとして切磋琢磨できるよう、お互い勉強を続けるんだと思うと、彼らが格好良く思えた。連絡先を知らなくても、心の中で繋がっている気がしてならなかった。 こうして小学校の友達、塾の友達とも、その後の繋がりゼロの人生を歩んできた。今でも(どうしてるかなぁ?)と思い出すのは、やはり塾の友達ばかり。噂によるとムードメーカー君は、難関中学に入学後、素行が悪くなってしまったそうだ。大麻だか覚醒剤だか、関わってはいけないブツに出会ってしまい、せっかく合格した学校を退学になったと聞いた。 そんなにはみ出しちゃう素質を持ち合わせていた子が近くにいたら、そりゃあ普通の小学生のことをつまらないと感じるわけだわ……。 かんだ・あいか/1980年、神奈川県出身。学習院大学理学部数学科を卒業後、2003年、NHKにアナウンサーとして入局。2012年にNHKを退職し、フリーアナウンサーに。以降、バラエティ番組を中心に活躍し、現在、昼の帯番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)にメインMCとしてレギュラー出演中 『FRIDAY』2024年3月29日号より 文・イラスト:神田愛花
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