個展のための描き下ろしイラスト「富江・チークラブ」（２０２３年）

　異形の美少女を描いた「富江」シリーズなどで知られるホラー漫画家・伊藤潤二さん（６１）の個展が市立伊丹ミュージアム（兵庫県伊丹市宮ノ前２）で開かれている。「伊藤潤二展　誘惑」と題して、デビュー前のスケッチから不気味さと美しさを併せ持った原画、描き下ろしのイラストなど約５００点が並ぶ。（池田大介） 【写真】雑誌の表紙やピンナップ用に描かれた富江のイラスト 　伊藤さんは１９８７年、体を切断されても再生する妖艶な美少女を描いた「富江」でデビュー。舌がなめくじになる「なめくじ少女」や怪物のような風貌のモデルが人を襲う「ファッションモデル」など短編作品を中心に数多くのホラー漫画を手がけてきた。ホラー特有のグロテスクな描写と登場する女性の際だった美しさとの対比などが魅力で、２０２３年にはネットフリックスで原作のアニメが配信された。３０カ国以上で翻訳されており、漫画のアカデミー賞ともいわれる米国の「アイズナー賞」は４度受賞している。 　同展は初の大規模な個展で、世田谷文学館（東京都）に続いて同ミュージアムで開催。展示は「美醜」や「日常に潜む恐怖」などテーマ別に分かれている。富江の原画が並ぶ一角では、怪しくほくそ笑む表紙イラストや横たわった体から複数の体が飛び出す異形の姿を描いた作品が並ぶ。他にも皮膚がただれた自らの頭部を抱え込んだ描き下ろしイラストや毛先まで細かくつくられたフィギュアがある。 　渦巻き模様にまつわる怪現象に襲われた町を描いた長編「うずまき」は、原画だけでなく特別なスクリーンを設置。まがまがしい渦巻きが顔面にできる登場人物にちなんで、スクリーンに映る自分の顔にもうずまきができる。敷地内にある江戸時代の旧岡田家住宅・酒蔵には、場面が映し出された大型のちょうちんも展示されている。 　最後の展示は、富江が描かれたデビュー前のノートや１０代に書いたＳＦ小説の原稿など伊藤さんの足跡に迫っている。作品以外にも名場面を描いたフィルムがガラスに貼られていたり、富江が描かれたちょうちんが設けられたりしており、観客はスマートフォンで盛んに写真を撮っていた。 　富江のファンの女性（２３）＝京都市右京区＝は「原画をじっくり見ると女性のまつげの一本一本が細かく描かれているなど美しさに見入ってしまった」と話した。 　１２月２２日まで。午前１０時～午後６時。月曜休館（祝日は開館し、翌日休館）。土日、祝日と一部の平日は事前予約が必要。一般千円、高大生７００円、小中学生４００円。同ミュージアムＴＥＬ０７２・７７２・５９５９