怒髪天、新体制初の新曲「エリア1020」をリリース! 波乱の1年を過ごすバンドの〈現住所〉
感謝と今楽しいよって気持ちを一番伝えたかった
ーーツアーの前半と中盤で、気持ちはどう変わっていきました? 「やっぱり馴染んでくるし、いい意味で演奏中に気にならなくなった。アレンジが違ったりすると〈あっ、こう弾くのか!〉〈おお、こういうのもカッコいいな!〉なんて、そっちに逆に興味津々になってたけど。今はもう慣れて気にならなくなった」 ーー寺岡さん(寺岡信芳/アナーキー、ベース)も、思いのほか馴染んでますよね。 「そうね。いい人だし。あとグレート(マエカワ/フラワーカンパニーズ、ベース)は最初から違和感なかったし。ケイタイモ(ex.BEAT CRUSADERS/ベース)の時は〈こんなに曲変わるのか?〉っていう面白さがあって。そういう違いが味わえるのは贅沢だよね」 ーーちなみに今回の新曲、ベースは誰が弾いてます? 「(上原子)友康。今回はギターもベースも弾いてる。作る時からどっちもアンプに繋いで、まずギター弾いてドラムと合わせて、次はギター置いてベース弾いて。物理的に手間はかかるし、まとまった作品作るなら大変だったと思うけど。まずは3人だけでやりたかった、って友康が言ってた。3人でも録れるってお客さんに見せたいところもあったのかな。もちろん今後やり方はいろいろ考えていくと思うんだけど、今回はアルバムじゃないからね。一曲だけのリリースだから。まず3人で、スカッと明るいものを出す。やっぱり心配してる人たちもいるだろうし」 ーーひとまず安心させたかった。 「そうだね。〈今楽しくやってるよ〉って。そりゃね、寂しかったり、悔しかったり、残念だったりする自分たちももちろんいる。でも今の一番言いたい気持ちって〈ライヴがやれて楽しいな!〉ってことだから」 ーーこの曲には〈俺たちが俺たちでいられる唯一の場所〉というフレーズがあります。増子さん自身は、おそらくどこにいても自分のスタンスを貫けるタイプだと思うんですけど。 「うん。俺が俺でいられる場所はいっぱいあるのよ。そんなの家にいても富士そばにいてもそう。どこにいても俺は俺だから。でも〈俺たち〉であるのが重要で。俺もその一部として加われるのが、たとえば怒髪天であって。〈俺たち〉が〈俺たち〉でいられる場所って、考えてみたらなかなか奇跡的なの。バンド自体が奇跡的なもので続いてるのよ。そんなにテレビ出たり、CM出たりしてるわけでもない俺らを、どっからか見つけてくれて、情報探してライヴに来てくれる。その巡り合わせや縁も奇跡みたいなものだから」 ーーそれはメンバーが3人になったから、よけい考えてしまうこと。 「うん、考えた。だから感謝と、〈今楽しいよ〉って気持ちを一番伝えたかった。どんなきっかけでもさ、繋がったり、来てくれたりする人の楽しい場所でありたいからね。楽しいっていうのはもちろん笑うだけじゃなくね。怒髪天はそういう場所でありたいって思う」 ーーはい。 「俺、ライジング(・サン・ロックフェスティバル)出るといっつも思うんだよな。この3日間だけ現れる街並み、移動式サーカスみたいだなって。ライヴってあれの縮小版だからね」 ーーあのフェスはおとぎの国のような雰囲気がありますけど。ライヴはもっと確かなものである、とは思わないですか。 「思わない。今までの経験上、確かなものではないよ。もっと奇跡的なことの連続だよ。今回3人になったこともそうだし、それこそ周り見渡せば死んじゃった奴、いなくなった友達もけっこういるわけだよ。そう考えると、生き物がやってる以上、確かなものなんてない。機械でもそうかな。物理的にできなくなることもあるだろうし。コロナ禍もそうだったけど、予期せぬことで突然揺らぐのはよくあることで。本来これは確かなものではないんだよね。人の気持ちもそうじゃない? 〈このバンドが好き!〉って気持ちだって、コロナ禍であっさり変わっちゃった人もいる。もう全然違う趣味、生きがい見つけた人たちもいるだろうし。だからこそ……儚いからこそ美しいっていうのもあるよね」 ーーその儚いものを〈現住所〉と言ってしまうんですね。 「月の土地買うようなもんだよ」 ーー昔ありました(笑)。 「ロマンあるよね。証明書くれるじゃない。あれと一緒。でも考えてみれば、何月にアルバムリリースします、ツアーやります、とか、バンドはまだ何もない段階で言っちゃうわけじゃない。すごい商売だよね。それでチケット買ってくれって言ってんだから」 ーーチケットって、未来への投資、みたいなところはありますよね。 「そう。でもそれがあるからちょっと頑張れる。それは俺たちもそうだから」 ーーわかりました。そして、現段階では〈リローデッド・ツアー〉の後半戦がすでに始まっています。内容は変わっていくんですか? 「もうセットリストが変わってる。この新曲もどっかで挟まってくるだろうね」 ーー楽しみにしています。ちょっと気が早い話ですけど、今年を振り返ってみて、どんな一年でしたか? 「……あっという間だった。まさかの事態から始まって、解決しなきゃいけない問題がいろいろあって、体調のこともあったから。ほんと早い。こんなこと今までなかったからね。通常営業ができるありがたさも身に染みたね。そしてまだまだやりたいこと、やらなきゃいけないこと、山ほどあるし」 ーーたとえば、どんなことでしょう? 「まず新曲。〈ああいう曲作りたい〉〈こういう曲作りたい〉っていう気持ちがどんどん強くなってる。それをずーっと追いかけてるから続くんだろうね。あと今、ベースが違うとこんなに違うのかって、音楽的な発見も面白くなってる。何が正解っていうんじゃなくて、音楽自体が面白い。やる人が変わるだけで〈あぁ、じゃあこういう曲もできるんじゃないか〉って思うから」 ーー好奇心は尽きない。素敵なことです。 「うん。この2年くらい、ほんといろいろ激動で。ただ、それによって人間強くなるかどうかはわかんないけど、でも乗り越えるんだよ。生きてる以上は乗り越えざるを得ない。それは時の流れの残酷さを感じることでもあって。この歳でも人間……成長じゃないけど、タフになるのかな、多少なりとも。だから同じような経験したヤツには、こう言えるよね。『あの時ああだったけど、どうにかなるよ』って」 ーーはい。 「こないだ、〈風とロック〉でKANA-BOONと一緒だったの。(谷口)鮪と久々に会ってさ。『いろいろ大変だったな』って言ったら『いや、僕こそ見ましたよ、ヤフーニュース。大変でしたよね。兄さんって呼ばせてください!』なんて言われたけど、お前らのほうが経験値高いだろうっていう。むしろ兄弟子だよ!(笑)」 ーーはははは。 「でも鮪が言ってた。『いろいろあるけどバンドって楽しいですよね』って」 ーーいい言葉ですね。 「ほんとそれに尽きる。起きたことが何であれ、それでもバンドをやるっていう選択をしたわけだから。それにこっちは何も悪くねぇんだし、諦める必要もなければ、遠慮することもない。ま、そういうことだ!」
石井恵梨子