憧れのF1桁機『Nikon F2』でスナップを撮る
以前より何度か書いているが、仲の良い友人とフィルムカメラ会をやっている。『Nikon F3』を購入した友人Aと私がカメラの話をしていたら、触発されて『Nikon F』を買った友人B。Bは初めての一眼レフに『Nikon F』を選ぶという、平成生まれが令和に取る行動としては相当気合の入った門戸の叩き方でフィルムカメラを始めた。2人を見ていたら我慢できなくなり、私は憧れのカメラ、『Nikon FM2(1982年発売)』を買った。 【写真で見る】フィルムカメラの名機『Nikon F2』で撮影した作例など 先日は3人で銀座のカメラ市にも足を運んだ。以前から欲しかったフォクトレンダーの距離計(メートル表記)が手に入り、嬉しいイベントだった。 友人の持つ『Nikon F(1959年発売)』はNikonが初めて作った一眼レフであり、同社製一眼レフにおけるフラッグシップ機(旗艦機。最上級機種の意)の歴史はここから始まった。 その後Nikonのフラッグシップ機は「アルファベット1文字+数字1桁」を冠するようになり、フィルムカメラのフラッグシップは『F2(1971年発売)』『F3(1980年発売)』とアップデートされ『F6』を最後にカメラ事業はデジタルへと転換、デジタル一眼レフのフラッグシップ機である『D1』が発表されたのは1999年のこと。こうした経緯からNikonの「1桁機」というのはその時代の最新・最高の機種に冠される名前なのである。ちなみにレンズマウントをZマウントに変更して以降もこの名付け方は続いており、現在のZマウントの最上位機種は『Z9』だ。 そんなわけで、友人たちの持つ『F』と『F3』はいずれも非常にハイエンドな機種なのだ。この2台に挟まれてカメラ市などに行くと、「F1桁機」への憧れがつのってくる。もちろん私が持っている『FM2』が悪いカメラだというわけではまったくなく、『F』『F3』よりも幾分小型軽量で、高速シャッター「1/4000」が切れるのも格好いい(ほぼ使わないが)。露出計の内蔵方法もスマートで、LEDの露出計は世間的にはあまり評価されていないものの、暗所でもくっきり見えるので重宝している。 ただし、『FM2』にも欠点がある。それは古いNikkorレンズが使えないこと。具体的には1977年以降に発売された「Ai方式」のレンズしか使えず、それ以前に発売された非Aiレンズは取り付けることができない。友人たちの持つ『F』『F3』ではこういった問題は起きず、カメラ市でもさまざまな古いレンズが話題に登った。こういう話題についていけないのは悲しい。 こうした経緯から「私もいつか『1桁機』が欲しいなあ……買うとしたら友人たちの間を取って『F2』かなあ……」なんて思って日々を過ごしていたのだが、ある日写真店に行ったら『Nikon F2 Photomic + NIKKOR-S Auto 50mm F1.4』がドンと店頭に並んでいた。価格は25,000円。触らせてもらうと状態も良く、露出計もバッチリ。レンズ付きでこの価格なら割安だろうと思わず購入してしまった。 改めて本機、『F2』を簡単に解説しよう。本機はNikonの2代目のフラッグシップであり、初代『F』の欠点を克服するべく様々なアップデートが凝らされている。着脱式だった裏蓋には蝶番がつき、後ろにあり押しにくいと言われたシャッターボタンは本体前面へと移動した。最速シャッター速度も1/1000から1/2000へと進化している。『F』は標準構成では露出計を搭載しておらず、ファインダーをデフォルトのアイレベルファインダーからフォトミックファインダーへと載せ替えることで露出計の搭載に対応した。『F2』もこの設計思想を引き継いでいるが、『F2』の場合は私が購入した機種のようにフォトミックファインダーを載せたモデル『F2 Photomic』が標準機種として流通していたようだ。フォトミックファインダーは『F』のものよりもさらに小型になっている。 さらに『F2』は完全機械式カメラであることにも触れておきたい。この後発売された『F3』は電子シャッターを採用しており、以降カメラは急速に電子化していくため、結果として『F2』が「最後の完全機械式フラッグシップ」となったのだ。また、フラッグシップ機の中では唯一Nikon社内でデザインされた機種であり、独特のルックスに仕上がっている。 一緒に購入したレンズ『NIKKOR-S Auto 50mm F1.4』は標準レンズの代名詞的な製品であり、1962年に発売されてから76年に光学系を変更するまでの14年間製造されていた。今回購入したカメラとレンズ、それぞれの製造時期を調べたところ、『F2』は1977年2月、『NIKKOR-S Auto 50mm F1.4』は1967年~1971年ごろに製造されたものだという。ちなみに1977年には本レンズをAi化した『Ai Nikkor 50mm F1.4』が発売されているが、本機には非Aiの古いレンズが付いていた。 『F2』のフォトミックファインダーにはいくつか種類があるが、これは一番スタンダードなもの。Nikkorレンズ上部についている金属製のツメ(通称「カニの爪」)がファインダーと噛み合って、レンズの絞り値をカメラ本体に伝える仕組みだ。ちなみに装着したレンズの開放絞り値を露出計へと伝えるために、レンズを装着したら絞りリングを絞り開放→最大絞りへと回す所作が必要だ。この儀式は「ニコンのガチャガチャ」と呼ばれている。 高校生のころ「ニコンのガチャガチャ」に憧れていたので、いまさらだが自分もそれが出来たというのはとても嬉しい。ちなみにAiレンズでも「カニの爪」が付いているレンズならこの露出計に対応する。カニの爪のないAiレンズを『F2』で使いたい場合は後年発売されたフォトミックAファインダー(DP-11)、フォトミックASファインダー(DP-12)を載せると使えるようになる。 ところで、約半世紀前のフラッグシップが現代でも不自由なく動くのは貴重なことだ。コンピューターの世界だとこうはいかない。趣味で古いMacを十数台持っているが、89年に登場しパワフルだともてはやされた「Macintosh SE/30」で現代のコンピューターとファイルのやり取りをするのは、不可能ではないが相当な手間だ。一方でカメラは半世紀前の機種でも家電量販店などでフィルムを買って装填すれば撮影できる。改めてすごいことだと思う。 本機を手に取った感想はズバリ「大きく、重い」。これは重厚感とかではない。本当に重い。常用している 『FM2』が本体のみで540gなのに対して『F2』は本体のみで620g、さらにここにフォトミックファインダーが載るのでプラス100g、レンズも大口径単焦点でズッシリ306gと堂々の1kg超え。肩への負担を減らすべく、ストラップにはいつも使うものより太い40mmを使用、速射ケースなど買ったらもっと重くなってしまうので、ケースではなくカメララップで軽く保護することにした。 ストラップはMOUTHの『Delicious Camera Strap 40mm』、カメララップには_goの『_go square W for camera M 長方形・厚地タイプ』を選択。カメララップのおかげで、大きく無骨なカメラがもっちりとした柔らかい印象になり、気に入っている。 憧れの『F2』を手にスナップを撮りに行くことにした。1本目に入れるフィルムは色味が好きで信頼している『フジカラー SUPERIA PREMIUM 400』。『F2』はフィルムを引っ掛けるツメが小さいので気をつけつつ装填し、撮影に持って出た。 どうだろう、本体の不具合は特になさそうだ。感光や露出計の不調もなくバッチリ撮れている。レンズの描写については開放F1.4は少し解像感が低いと感じるが、最短撮影距離が約60mm、開放のピントも浅くてピントの山を捉えるのに難儀したので、もしかすると私が未熟なだけかもしれない。ちなみにF4程度まで絞ると解像感、コントラストが改善するよう。 おそらく以前の持ち主が交換したのだろう、本機にはスプリットプリズムの45度に傾斜したフォーカシングスクリーンが載せてあり、ピント合わせに慣れるのには少し時間がかかりそうだ。 『F2』は実際に使ってみると本当に格好いい機種で、色んな場所に持ち出して写真を撮りたいと思わせてくれる。先に所持していた『FM2』とは共通点も多く、親子のような機種だと感じた。この2台を主力として、今後も趣味の撮影を続けたい。 近年は若年層にフィルムカメラが流行しているというから、若い人にはぜひ『F2』のような「過去の最高級機」にも触れてほしいと思う(とはいいつつ、今日掲載したカメラはすべて私にとっても生まれる前のカメラなのだけれど……)。『F2』は性能に対して中古の市場価格が安く、手頃な価格で購入できる高級機だ。『F2 Photomic』なら古い非Aiのレンズはもちろん、Ai化したレンズでもカニの爪さえ付いていれば露出計が使えるし、フォトミックファインダーを載せ替えればAi方式のレンズでも露出計を動かせるため、とても多種類のレンズを露出計連動で使える。非Aiレンズは値段の手頃な中古玉が揃っているのも嬉しい。重さや大きさに後悔しないよう、中古を買う際には実店舗で実際に手に取って買ってほしい。
白石倖介