ムーンスターの人気プログラム“マイスニーカー”作りを体験 既製品にないオリジナルに満悦至極
タイヤや靴の製造などゴム産業が盛んな福岡県久留米市。主要企業の一つの靴メーカー、ムーンスターで「マイスニーカー」を作る体験ができるという。実際に参加し、「ゴムの街」を肌で感じた。 【写真】作業終盤で、笑顔で靴を手にする参加者と記者 今回申し込んだのは、同市を中心に展開する体験型観光プログラム「久留米まち旅博覧会」。ムーンスターの広報担当者が「よく予約が取れましたね」と驚くほど、スニーカー作りは人気のプログラムだという。会場は、実際に商品を製造する工場の一角だ。 「靴側面の線からはみ出ないよう、のりを塗ります」。指導役を務める第一製造課の小林悠輝さん(45)が、アルミニウム製の靴型にかぶせたアッパー(靴底以外の甲や側面、かかと部分)に素早くのりを塗り、お手本を示した。記者もブラシでのりを伸ばしていく。のりが少ないと伸びが悪く、多過ぎるとはみ出そうになる。なかなか「先生」のようにはいかない。 乾燥機でのりを乾かした後は、「先ゴム」をつま先のカーブに沿って貼る。「少し伸ばしながら貼るとうまくできますよ」と小林さん。絶妙な力加減で、しわもなく貼ることができ、ちょっとうれしくなった。 「一度参加したら楽しくて。地元の企業で靴作りの体験ができるって、貴重ですよね」。同じグループで作業していた同市の日野詩織さん(40)は3回目の参加。福岡市の堀優子さん(59)も「のりが手に付いて焦ったけど、それも勲章」と笑う。共に作業する「同志」だからか、不思議とすぐに打ち解けた。 次は幅2センチほどのゴムの帯「下テープ」を、アッパーの側面に貼っていく。向きを変えながら帯を靴に沿わせるが、途中で帯同士がくっついてしまった。 ゴム製の靴底と合わせ、プレス機で圧着。さらに下テープの上からゴムの帯「廻しテープ」を貼る。今度こそ帯同士がくっつかないように細心の注意を払う。貼れた、と思ったら少しゆがんでいた。「これも愛嬌(あいきょう)。手作りならでは」とかえっていとおしく思えた。 つま先に保護用ゴムを取り付けた後、通常はかかと部分に貼る「ヒールパッチ」を側面にあしらい、個性を演出。すると、日野さんが余ったゴムを星と月の形に切り抜き始めた。参加3回目の“ベテラン”は、つま先部分の飾りにするようだ。記者も星のマークを作り側面へ。既製品にはないオリジナルに満悦至極だ。 成型した靴は「加硫缶」と呼ばれる大きな窯に入れ、圧力をかけて加熱する。その間、稼働中の工場や歴史を紹介する展示も見学した。 ムーンスターは1873年、足袋製造の「つちやたび店」として創業。米国産のキャンバス靴をヒントに、1920年、ゴムを底に貼り付けた地下足袋の開発に着手。23年から本格生産・販売を開始した。地下足袋と同時期にキャンバス靴の研究も始め、25年には運動靴の製造も本格的に始めた。 工場見学ではまずゴムの製造現場へ。足を踏み入れるとゴム独特のにおいが広がる。用途ごとに合成ゴムと天然ゴムの割合を変え、硫黄などの薬品を混ぜ込むという。軟らかくなったゴムをローラーで伸ばし、用途に合わせて裁断する。 次に訪れた組立工場では、職人が鮮やかな手さばきでアッパーを素早く靴型にかぶせていく。機械作業をイメージしていたため、想像以上に手作業が多く驚いた。工場内には大小さまざまな靴型の数々。広報担当者は「靴型が強み。150年分の足データの蓄積により、履きやすい靴ができるんです」と教えてくれた。 待機場所に戻ると、出来たてほやほやのスニーカーが運ばれてきた。側面の星のマークがかわいらしく、もったいなくてしばらく履けそうもない。貴重な体験を通じ、久留米の産業の歴史と、それを支えてきた職人の技術力を感じた。 (文・岡部由佳里、写真・小林稔子、岡部由佳里)
久留米まち旅博覧会
九州新幹線鹿児島ルート全線開業を前に地域の魅力をPRしようと2008年に始まった。久留米市を中心に、自然や伝統工芸、歴史や食文化など地域資源を生かしたプログラム。ムーンスターでの靴作り体験ができるのは、一般向けではまち旅博覧会のみで、次回は来年秋を予定している。