【いじめ自殺を防ぐ1枚の診断書に全国から殺到】現役精神科医が語る「法と医者は使いよう」、学校の対応が遅いと言われるのはなぜ?
いじめ防止対策推進法は、実によくできている。眠らせておくには惜しい。いじめの防止に関わるすべての職種が、その目的のために使えばいい。 同法は、その「基本理念」として、第三条に「いじめの防止等の対策」は、「いじめが児童等の心身に及ぼす影響その他のいじめの問題に関する児童等の理解を深めることを旨として行われなければならない」としている。医師、とりわけ、精神科医は心身の専門家である。だから、精神科医がこの法に触れてはいけない理由はない。使うべきである。 また、児童・生徒とその親御さんにおかれては、精神科医をもっと使ってほしい。「法と医者は使いよう」、それが、筆者の意見である。 本連載の2023年2月1日に記した「1枚の診断書がいじめ自殺を防ぐ 医師だからできること」は、さいわい多くのいじめ被害者・家族に読まれた。そこに掲載された診断書サンプルを求めて、筆者のところにお越しになる方もきわめて多く、新幹線・飛行機を使って遠方から受診なさる方もいる。ひところは、外来初診患者がいじめ被害者ばかりのときもあった。 受診してきた児童・生徒のなかで、本人・家族から話を伺って、「いじめ」の定義に該当しなかったケースは一例もない。それどころか、「重大事態」に該当するケースばかりである。 精神科医の筆者の目から見ても、明らかに「いじめにより当該学校に在籍する児童等の 生命、心身又は財産に重大な被害が生じた疑いがあると認める」(法第 28条第1項第1号)からである。
校長が動けば学校は動く
学校はいじめ問題に対して対応が遅いといわれるが、それは正しくない。学校の内部で、しかも、一部の教員だけが抱え込んでいるからそうなるにすぎない。 学校という組織は、外部の眼があることを意識すれば、急に変わる。診断書を一枚出しただけで、突然、組織的対応を開始し、しかも、その後は驚くべき迅速さで対処してくれる。 学校を動かすには、診断書の書き方に工夫が必要である。学校・学校設置者の責任に言及することである。そうすれば、その診断書は、直ちに学校のトップに上がる。 診断書を読めば、校長・理事長・教育委員会は、自身の責任が問われていることがわかって、目の色を変え、すぐさま、トップダウンで対応を指示してくれる。学校という組織は事なかれ主義だと思われがちだが、けっしてそうではない。トップに対し、その責任に注意喚起すれば、校長は必ずやリーダーシップを発揮してくれる。 診断書の効力は絶大である。そこに「いじめ防止対策推進法」への言及があり、しかも、その第二十八条で学校・学校設置者の責任が明記されており、その点に注意喚起した文言があれば、この診断書を握りつぶすことはあり得ない。実際、握りつぶしても無駄である。診断書には、記載日、医師名、医療機関名が記されるうえ、コピーが医療機関側に保存される。訴訟が生じた際、診断書の証拠価値は極めて大きい。 筆者としては、訴訟に発展することがあることを見越して、患者・家族に対して「この診断書に関して、求められたらいつでも法廷で証言します」と約束している。