大河ドラマ「光る君へ」で話題の「源氏物語」 紫の上に赤紫の着物、色が映す光源氏の心理
■「明石の君」の白×紫は純粋さと気高さを象徴
さて、光源氏が左遷された先で愛人関係となった明石の君に贈られたのは、こんな色の着物でした。 「梅の折枝、蝶、鳥、飛びちがひ、唐めいたる白き小袿に、濃きがつややかなる重ねて」 異国風の柄物の白に濃い紫の組み合わせ。純粋さを表す白と気高さを示す紫とは、中々に凜(りん)とした高貴な配色です。気品のある人でなければ着こなせない衣装が選ばれたのを見た紫の上は、明石の君に嫉妬心を募らせます。 明石の君は身分が低い女性でした。 光源氏が左遷先から都に戻った後、明石の君は光源氏との間にできた娘を産んだのを機に、光源氏が娘と一緒に都へ迎え入れようとした際も、「住む世界が違う」とばかりに断ってしまいます。 光源氏が彼女に白と紫の着物を選んだということは、たとえ身分は低くても、その精神性の高さを光源氏がリスペクトしていた証拠。明石の君はさぞやうれしかったことでしょう。
■「玉鬘」の山吹色が放つ圧倒的な存在感
紫の上がもう1人、気になったのが玉鬘(たまかずら)という女性。 彼女は光源氏が若い頃に恋した女性の1人、夕顔の忘れ形見で、美貌と教養の高さを身に付けていました。光源氏は玉鬘を養女として引き取り、「歳暮の衣配り」ではこんな色の着物を贈ります。 「曇りなく赤きに、山吹の花の細長」 鮮やかな赤と山吹色のコンビネーション。赤は行動力や勇気、バイタリティー、山吹色は知恵や心の豊かさを表す色です。圧倒的な強さや存在感を感じさせる色合いを見た紫の上は「よほど素晴らしい人なのでないか」と玉鬘に関心を寄せます。 その後、光源氏は玉鬘に盛んにアプローチしますが、彼女は義父である光源氏とはうまく距離を取り、一線を越えることなく他の男性と結婚します。まさに、赤と山吹色が醸し出す聡明(そうめい)でパワフルなイメージ通りの女性だったのでしょう。
■頼れる存在「花散里」には淡い青がぴったり
玉鬘を光源氏が養女として引き取った際、世話を託したのが花散里(はなちるさと)という女性です。 光源氏にとって花散里は精神的な支柱。何か困ったことがある度に相談し、花散里もそんな光源氏を温かくサポートするという、強い信頼関係にありました。そんな花散里に贈られた着物の色がこちら。 「浅縹(あさはなだ)の海賦(かいふ)の織物、織りざまなまめきたれど、匂ひやかならぬに、いと濃き掻練(かいねり)」 明るいスモーキーブルーに紅色の組み合わせ。落ち着きや冷静さ、抑制を示すスモーキーブルーは、まさに花散里の控えめな性質にぴったりです。 このように色彩の観点から「歳暮の衣配り」を見ていくと、色が人物像を見事に表していることが分かります。カラーセラピー(=色を用いた心理療法)は古代ギリシャの時代から存在したといわれていますが、世界最古の長編小説である「源氏物語」には現代の色彩心理メソッドが活用されているかのようで、人間と色の結びつきの深さを感じます。 個性豊かな登場人物たちの心情に共感できるところを含め、こうした普遍性も、「源氏物語」が1000年の時を超えて愛される理由なのかもしれません。 文:志村香織(ライフスタイルエディター&ライター、カラーセラピスト) イラスト:谷本ヨーコ