『蛇にピアス』から20年、金原ひとみさん(41歳)特別インタビュー「中高年の行く末にはのびしろがある」|美ST
失敗を恐れて今の自分に凝り固まる大人は、若者に対してある種の老害
人は年齢を重ね何らかの役割を担うようになると、はっちゃけたり、道から外れた行動はとりづらくなるものです。企業に属していない私ですらファンキーな部分が年齢や経験とともに失われていく感覚がありますから、職場の役職や環境などの抑圧に晒されている方々は尚のことではないでしょうか。 そんな中「もううんざりだ!ぶち破りたい!」という衝動も同時に湧いてはきますが、道筋はどんどんなくなっていく。経験から予測ができてしまって冒険をしなくなるし、そもそも体力面でキツいし、だからこそ失敗を避けがちになります。ですが失敗を避けて過去や今の自分に凝り固まるのは、若者に対してある種の老害だと思いませんか?私の友人が言っていてハッとしたのが、「面白いことができなくなった人ほど老害になっていく」という言葉。そんなこと考えたこともなかったのですが、中高年の痛いところを突いているなと思います。 コロナ禍を経て、今の世の中は何かがあった時にフレキシブルに生きていける力が重要になっています。これまで求められてきたこととは違うスキルですよね。10代や20代の時ほど自由に柔軟ではいられないことに葛藤しながら、自分をあまり定義しすぎず、なけなしの冒険心を奮い、「このままでいいのか?」と重い腰を上げて一歩を踏み出せば、何かが鮮やかに見え始めるかもしれない。そんな偶然性を人生に持つことができたら、中高年の行く末にはまだまだ伸びしろがあるのではないか、と思っています。
“聞かれる”ことを前提にした執筆は、自分にとっても新鮮な実験の連続
今回の執筆をきっかけに私もAudibleを聴いてみたのですが、想像していたより集中力を使います。ただ聞き流してたら「あれ?今誰のこと言ってるんだっけ?」と迷子になってしまう。なので登場人物のセリフや語り口でキャラの聞き分けができるように工夫しました。なおかつ、音として物語が耳に入ってくるので、会話はカフェで聞こえてくるようなイメージで、テンポよくできるだけ生々しく。 登場人物の名前も、いつもは記号のようにしかとらえていなかったのが、「平木直理(ひらきなおり)」とか、「かさましまさか」とか、音として映えるかなと思って、今回は音重視ですごくこだわったポイントですね。そうした普段とは違うアプローチでのキャラ作りや執筆は新鮮だったし、この小説ならではの描写に活きていると思っています。 撮影/鈴木章太 取材/キッカワ皆樹 編集/浜野彩希