給与の「デジタル払い」始まる 多様な働き方も後押し 普及のカギは利便性の提供
国内で給与のデジタル払いが始まった。ソフトバンクグループのスマートフォン決済大手「PayPay（ペイペイ）」が、従業員への給与を現金ではなく電子マネーで支払う事業者として8月に厚生労働省から指定を受け、サービスの提供を開始。デジタル払いは海外で先行しており、従業員の多様な働き方を後押しするという期待がある一方、現状ではメリットを実感できる人は限定的との見方も根強い。 【グラフでみる】キャッシュレス決済額と比率の推移 ■銀行口座必要なし 「支払い手段から、お財布になる」。PayPayの柳瀬将良金融戦略本部長は展望をこう語った。同社はソフトバンクグループ10社の希望者を対象に9月分からPayPayでの給与支払いを始める。年内には一般企業へ向けたサービス提供もスタートするという。 給与のデジタル払いでは企業側が従来の銀行振り込みと同様に、個々の従業員のPayPayアカウントに直接給料を支払う。ただ、破綻やセキュリティーといった、さまざまなリスクを回避するため、PayPayで支払う給与の上限額は20万円に設定されている。 企業にとって、こうした給与のデジタル払いのメリットは、支払いの早さと安さだ。銀行振り込みには3営業日程度の日数と数百円の手数料がかかるが、PayPay銀行法人口座からPayPayで給与を支払う場合は、休日でも即日払いが可能で手数料もかからない。このため、日払いや週払いも行いやすくなり、企業側からは採用活動の幅が広がるとする期待の声もあがっている。 一方、従業員側も銀行口座やATMから決済アプリへの「チャージ」を省ける利点がある。銀行口座の開設手続きが困難な外国人や銀行口座を開かずにアルバイトを始めた若者にとってもスマートフォンで給与を受け取れるメリットは大きい。 ■海外では導入進む 海外では、給与のデジタル払いの導入が進んでいる。米国では、スーパーとでの決済や現金引き出しに利用できる「ペイロールカード」が給与受け取り手段として普及。中国でも「デジタル人民元」や「アリペイ」での給与支払いが始まっている。 日本でも、キャッシュレス化は加速しており、経済産業省によると、令和5年のキャッシュレス決済額の比率は過去最高の39・3％に達した。政府目標の8割には遠いが、給与のデジタル払いの導入で、さらなる加速も期待され、PayPayに続き、楽天Edyなど3社が厚労省の審査を受けており、NTTドコモやメルカリも申請準備中だ。
