だいご菓子司(青森)110年の歴史に幕
大正初期から110年にわたって続き、銘菓「心」や「たぬきケーキ」で知られる青森市造道3丁目の和洋菓子店「だいご菓子司」が12月31日、閉店した。夫婦二人三脚で伝統の味を守ってきた3代目の石田次郎さん(75)、あき子さん(74)の体力の衰えなどが理由。あき子さんは「ただがむしゃらに走ってきた。お客さんに大層お世話になったおかげでここまで続けることができた」と、満ち足りた思いと感謝を胸に店じまいした。 同店は、1914(大正3)年にあき子さんの祖父幸之助さん(享年76)が旧蟹田村(現外ケ浜町)に創業した和菓子店「石田」が起源。2代目の父孝さんが「だいご菓子司」と店名を変え、60年ごろに青森市内へ進出した。洋菓子も売り始め、一時は2~3店舗を展開した。 そんな環境で育ったせいか、あき子さんは幼少期から菓子作りが大好き。「職人さんたちが学校帰りの私のために湯煎や撹拌(かくはん)などの仕事をいつも残しておいてくれていた。私にとって店を継ぐのは自然なことだった」。孝さんが83年に54歳で亡くなった後、共に働いていた夫の次郎さんと後を継いだ。 看板商品の「心」は、穏やかな人相をかたどった生地で、ゆずあんを包んだ和菓子。その顔を仏様と捉えるか観音様と捉えるかは、見た人次第という。あき子さんが子どもの頃に蹴って遊んでいた石を模した「石けり」や、たぬきケーキをはじめ店伝統のバタークリームを使った洋菓子などを目当てに何十年も通うなじみ客が多く、遠方から訪れる人もいた。 2000年ごろから現在の1店舗のみで営業してきたが、年々体力的な厳しさが増し、当初は24年4月での閉店を予定していた。「困る」との客の声を受け一度は店を続けることを決めたものの、数年分のロット生産が必要な「心」の包装箱の在庫が夏ごろになくなった上、度重なる猛暑で体力の限界を感じ、店を閉じる決断をした。 最終営業日の12月31日は、正月用の口取りやひいきの菓子を買い求める客が相次ぎ、口々に「ご苦労さまでした」とねぎらいの言葉をかけていた。40年ほど通った同市の小山内忠春さん(76)は「よく盆や正月にお供え物の菓子を買いに来ていて、1個サービスしてくれることもあった。お店がなくなるのは寂しい」、50代男性は「幼稚園の頃から、ケーキといえばここのたぬきケーキだった。やめないでほしかった」と残念がった。 涙や握手を交わして常連客との別れを惜しんだあき子さんは「祖父、父と受け継いだ味を変えずに同じものをずっと作り続けるのは大変だった。買う人には分からないかもしれない少しの違いだけど、一つ一つの作業に手を抜かず作ってきた」と振り返り、「好きなことをやって終われて幸せだった」と万感をかみしめた。