資産家一族からの転落、「起業だけはするな」が家訓に フィットネス業界の風雲児、波瀾万丈の半生
キーエンス退社後、2年の充電期間を経てトップブロガーに返り咲き
その後は元キーエンス社員というプライドが邪魔をして、世の仕事をバカにし、無職の日々が続いた。退社から2年がたったころ、自身の現状に危機感を感じ、キーエンス時代の同僚に相談。自分の名前を売り込むためにブログを始め、「こだわり社長」のハンドルネームで瞬く間にトップブロガーに返り咲いた。 「キーエンスの内定を勝ち取ったときと一緒で、上から順に当時のトップブロガー200人に連絡を取ってノウハウを学びました。読まれるテーマは衣食住、その中でも敷居の低い食を狙い、オープン直後の店に誰よりも早く来店してブログに書く。するとどこにも情報が出てないから、その店が話題になったときにSEO(検索エンジン最適化)で1位になれる。どの人気店を調べても僕の記事が出てくると、逆にグルメ雑誌から取材を受けたりもしました」 グルメブロガーが軌道に乗り始めたころ、六本木の交差点で偶然サイバーエージェントの藤田晋社長に遭遇。このときも千載一遇のチャンスを逃さなかった。 「『君のブログ知ってるよ。頑張ってね』と言われて、このままじゃただの名刺交換で終わっちゃうと思った瞬間、『藤田社長、あなたのやり方は間違ってますよ』と口から出ていた。青ざめながら『芸能人集めてブログやらせても金がかかるだけ。これからは僕みたいな一般人を公式ブロガーにしないと』とまくし立てたら、『君、面白いこと言うね』と」 この一言が藤田社長の琴線に触れ、当時芸能人しか登録されていなかったアメーバブログの公式ブロガーに一般人として初登録。プロモーションも盛んに行われ、わずか半年でアメブロ1位に躍り出た。飛躍を足がかりに、レバレッジの前身となるコンサル会社を起業する。38歳のときに経営者人脈を築く目的で空手を始め、シニアの部で8度の大会優勝。これが現在のフィットネス事業につながっていく。 「最初は全然勝てなかったのが、パーソナルトレーナーをつけてからは連戦戦勝。筋トレってすげーなと思う反面、有名なフィットネスジムは高いところばかりで、優秀なトレーナーと顧客がマッチングできていないんじゃないかと」 2016年、フィットネス業界専門サイト「ダイエットコンシェルジュ」を立ち上げ。完全成果報酬制で、パーソナルトレーナーと顧客を結ぶサービスを始めた。手応えをつかみ、次の矢としてトレーナー養成スクールを開設すると、全国各地から2000人を超える応募が殺到。着実に地盤を築き、満を持して参入したのがプロテインブランド「VALX」だ。監修は、元プロ野球選手の松坂大輔氏や、ダルビッシュ投手のトレーナーとしても知られる、ボディービルダー界の“レジェンド”山本義徳氏が務めている。 「全国のトレーナー人脈に、誰の監修がいいかヒアリングしたところ、9割以上から山本先生の名前が上がった。過去にプロテイン事業に失敗している山本先生には何度も断られましたが、しつこくマーケティングの力をプレゼンし、何とか口説き落としました」 プロテインといえば、国内シェア1位を誇る明治の「ザバス」が有名だ。後発のVALXはあえて広告費をかけず、山本氏による筋トレ専門YouTubeチャンネル「筋トレ大学」や、プロのトレーナーによる口コミで、まずは本格派のコアな筋トレファンが求めていたニーズを獲得。そこからシャワー効果で一般層にも市場の裾野を広げている。こうした手法が取れるのは「商品が本物だから」と自信を込める。 「変な話、マーケティングがうまければモノは簡単に売れるんですよ。でもモノがあふれている今の時代において、マーケティングのみで売り続けるのは不可能だと思っています。お客様に買い続けてもらうためには、本物を追い求めることが必要。“本気でやらなきゃもったいない”。ここまで来るのにいろいろあった人生ですけど、僕の原点は中学のときから変わってません」 本気で挑むことを突き詰め、一点突破で走り続けてきた人生。只石社長は変わらぬまなざしで時代の先を見据えている。
佐藤佑輔