任天堂を「ゲームの覇者」と捉える人に欠けた視点 失墜した日本メーカーの中で成功した根本理由
イノベーションはどこかの時点で必ず壁にぶち当たります。最初は差別化が機能して「勝つ」ことができていた企業でも、新規参入が増えるごとに過当競争に巻き込まれるのが常です。そんな中で、いかにビジネスを展開するかという点で、2000年代に刊行されたうち最も優れたビジネス本が、『イノベーションのジレンマ』と『ブルー・オーシャン戦略』の2冊でした。 本書には、当時、任天堂本社の社長だった岩田聡氏と著者のレジー・フィサメィ氏が、この2冊を教科書として任天堂が次に打つべき手を検討した様が記されています。
当時、任天堂の最大の競合相手だったPlayStationとXboxは、従来の方向性のまま高画質、高性能化する道を歩んでいました。同じく高性能化の道を選べば、以前よりもいっそう激しく、従来のゲームファンを競合2社と奪い合うことになるのは必至です。 そこで任天堂は、あえて「使い勝手のよさ」に照準を合わせ、ゲーム分野のブルー・オーシャン、すなわち今までゲームなど触ったこともないような若い女性や中年女性にアピールできるゲームを作る道を探りました。それが功を奏したことは、言うまでもないでしょう。
任天堂は、2冊の教科書に記されている教訓を地で行くことで、見事にイノベーションのジレンマを乗り越え、ブルー・オーシャンの開拓に成功しました。かのソニーを含めた日本企業のなかで、これができたのは任天堂だけでしょう。「ゲームの本分は高性能や高画質ではない、おもしろければいいのだ」という発想に立ち返ったところに、任天堂の先見の明がありました。 ■「ゲームだけは独り勝ち」の日本の課題 現在、プラットフォームビジネスで世界的に成功している日本企業は、ゲーム分野の任天堂とソニーくらいでしょう。それぞれの成功への道のりは方々で語られています。しかし、なぜ、ゲームを主力商品とする2社だけがうまくいき、その他の日本企業はうまくいっていないのかについて深く掘り下げた分析は、いまだに見かけたことがありません。