「介護士は聖人君子じゃなくていい」介護芸人さかまき&倉田真由美が介護漫画で伝えたかったこと
厚生労働省によると、要介護・要支援認定者の総数は令和3年4月時点で684万人、この約20年間で約3倍以上に。 特に軽度の認定者数の増加が顕著で要介護・要支援認定者数が再び増加傾向になっている。介護はもはや他人事ではないーー。大介護時代と言える今、介護の実情を少しでも知ってほしいと漫画家の倉田真由美とお笑い芸人のさかまきが立ち上げたのが介護コミック「お尻ふきます!!」プロジェクト。約1年間のWEB連載を経て本日11日、初の単行本刊行を迎えた2人に、企画スタートから漫画ができていく過程や漫画制作の裏話、二人が作品に込めた思いなどを聞いた。 【漫画】新人介護士ウメはここから誕生した ■さかまきさんは最初から漫画のネームがうまかった ──介護コミック「お尻ふきます!!」プロジェクト、最初はどのような形でお話が進んだのですか? 倉田「さかまきさんの書籍を基にしたエッセー漫画というお話でしたが、介護の漫画で実話だとナイーブな一面もあって」 さかまき「制限が出てきますよね」 倉田「だから、フィクションの方がいいと思ったんです」 さかまき「それで主人公を女の子に置き換えて、しかもネームも僕が描くことになって…」 倉田「(漫画のネームを描くのは)初めてだったんですよね? 初めてであのクオリティーはすごい」 さかまき「ありがとうございます。でも、最初は僕が描いた本を倉田先生が読んで描いてくださるものだとばかり思っていたので、ネームを描いてほしいと言われて、その時は頭が真っ白になりました」 倉田「でも、やっぱり漫才のネタを書いているだけありますよね」 さかまき「……えっと…お笑いのネタは僕ではなく相方が書いてて…」 倉田「あれ? 違うの? 騙された! 上がってくるネームが素晴らしいから、てっきりそうだと思い込んでいました」 さかまき「なんかすいません(苦笑)」 倉田「だって、第1話の時から初めてネームを描いた人とは思えない出来だったんですよ!」 ──具体的にどんなところが、良かったのですか? 倉田「漫画なのに、リアリティーを失っていないところです。しかも、回を重ねるたびに登場人物がどんどん面白くなる。人物描写もバラエティーに富んでいて、やはり現場で実際に見てきたさかまきさんじゃないと思いつかない人物像やエピソードだなと思いました。例えば、ごみ屋敷に住んでいた人が介護施設に住んだらどうなるのか?(第13話「ごみ屋敷のキヨシさん」)とか。エッセー漫画ではありませんが、それと同じぐらいのリアリティーや面白さがある作品になったのではないかと思います」 さかまき「ありがとうございます。やはり実体験がベースになっていないとうそっぽく見えてしまいそうだし、僕が描く意味がなくなってしまうかなと思ったのでリアリティーは重視しました。ただ、第2話のネームを提出した時は倉田先生に即ツッコまれたんですよね」 ──倉田先生から、どんなことをツッコまれたのでしょうか? さかまき「最初はウメのおじいさんのホームへルパーさんが献身的にお世話している姿を見て、ウメが心を動かされるネームだったんですけど、僕自身も実は違和感があったんです。そうしたら、倉田先生からも『ちょっと安直な気がします』と返事が来て、バレた!と(笑)。それからは自分の気持ちに正直に描くようになりました」 倉田「それから、すごく良くなりましたよね! さかまきさんのネームの絵は決して上手なわけではないんですけど、表情がすごく伝わってくるんですよ。その辺りも感覚が合う気がします」 さかまき「そうなんですか!?」 倉田「お互いの感覚の誤差がなかったので、キャラクターの表情もとても描きやすかったです」 ■描く際にこだわったのは重くなり過ぎないことと… ──さかまきさんがこだわった部分はどんなところですか? さかまき「介護というとどうしてもシリアスな方向に行きがちなので、あまり重く見えすぎないようにということを意識しました。そもそもグループホームは認知症の方がいらっしゃる場所で、車椅子の方も半身不随の方もいる。でも、仕事をやっていて思うのは介護士側の受け取り方、つまり了見次第で状況が明るくもなるし、暗くもなる。だから、ウメが状況を暗く受け取らないようにしたいなと思いながらネームを描いていました」 倉田「素晴らしい! この作品にいくつもある面白さにつながる理由の一つがそこだと思います」 さかまき「それから、この漫画を通して、介護士の変えたいイメージが二つあって。一つは暗いイメージで、もう一つは介護職の人がみんな良い人というイメージです」 倉田「介護士の方って、天使みたいなイメージがありますよね?」 さかまき「でも、そうじゃない方ももちろんいるんです。僕もエロ番組に出たりすると、他の芸人から『介護芸人が出ていいの?』と言われたりするんですけど、全然問題ないと思うんです。むしろその方がいい。介護職はただでさえなり手が少ない上に、離職者が多い職業なので、そんな良いイメージを押し付けると息苦しくなって誰もやりたがらないと思うんです」 倉田「おっしゃる通りですよ」 さかまき「そういうイメージを払拭したかったので、ウメは元ギャルでパリピ感があって、うんちを見たらギャーって騒ぐし、隣で嘔吐されたら怒るし、聖人君子にしないようにしました。いい子過ぎるとうさん臭くなっちゃうので」 倉田「聖人君子みたいな人が向いている職業かというと、必ずしもそうではないと思いますしね」 さかまき「意外とそういう雰囲気の人の方が裏で怖かったりして…」 2人「あはははは(笑)」 ■この漫画を通して介護の認識が広まるとうれしい 倉田「ところで劇中のキャラクター『酒巻』はさかまきさんご自身ですよね?」 さかまき「僕です。もしドラマ化されたら、自分が演じたいなと(苦笑)」 倉田「そういえば、医者や看護師が主人公のドラマや映画は結構あるけど介護士はないですよね?」 さかまき「はい。介護をするシーンが少し出てくることはあっても、介護士や介護施設がメインの映像作品はほぼ見たことがないです」 倉田「育児は子供を持たない人もいるので、する人、しない人がいますけど、介護は人間誰もが歳をとるから、する側になったり、されたりする側になり得るものなのに、注目度が低いんですよね」 さかまき「そうなんですよね」 倉田「そもそも介護士さんがメインの漫画って、これまであまりなかったですよね? 聞いたところによると、世の中には介護施設が4万軒以上もあって、誰もが介護したり、されたり、いつかは関わるものなのに、情報がなさ過ぎる気がしていて。介護施設のことを知りたいけれど、活字からスタートするのは……という人にお薦めの作品だと思うので、この漫画でもっと介護についての認識が広まるといいなと思います」 さかまき「僕も介護のイメージを変えたいという思いもありますが、まずは何も考えずにマンガを楽しんでいただけたらうれしいです!」 ■コミック「お尻ふきます!!」あらすじ 高校卒業後、パリピ街道まっしぐらだった元ギャルの早乙女ウメは、仕事も恋愛もうまくいかずどん底の日々。そんなある日、高校時代に仲の良かった先輩から1本の電話がかかってくる。 「ウメ、介護やってみん?」 人生で全く接点のなかった「介護」という言葉に戸惑うウメ。その場は言葉を濁したものの、後日、強引にグループホームと呼ばれる介護施設での見学が決まってしまう。そんな折、実家へ帰省したウメは、祖父が認知症を患っていることを知る。楽しそうに祖父を介護するホームヘルパーの様子を見たウメは、今まで全く触れてこなかった介護に少しずつ興味を持ち始める。 取材・文=及川静