村上春樹「僕の翻訳の師匠みたいな方です」40年以上交流がある翻訳家・柴田元幸と「ポップミュージックで英語のお勉強」
作家・村上春樹さんがディスクジョッキーをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「村上RADIO」(毎月最終日曜 19:00~19:55)。1月28日(日)の放送は、先月、早稲田大学国際文学館(通称:村上春樹ライブラリー)内のスタジオで実施された公開収録イベント「村上RADIO公開収録~ポップミュージックで英語のお勉強~@The Haruki Murakami Library」の模様をオンエア。 村上DJと40年以上交流があり、一緒に翻訳の作業もしてきたという米文学者で翻訳家の柴田元幸さんを迎えて、青春時代に出会ったポップソングを交互に紹介しながら、英語の歌詞やタイトルについて語り合いました。 この記事では、冒頭のトークパートの模様をお届けします。
こんばんは。村上春樹です。村上RADIO、今夜はゲストに翻訳家の柴田元幸さんを迎えて、早稲田大学国際文学館「村上春樹ライブラリー」のスタジオから公開録音でお送りします。スタジオの前にはオーディエンスのみなさんがずらりと並んでいらっしゃいます。 今日の番組のテーマは「ポップミュージックで英語のお勉強」というものです。僕と柴田さんがお互いにうちから音源を持ち寄って、それをかけながら、英語の歌詞やタイトルについて、あれこれとお話をします。この番組が始まる前と、終わった後で、少し英語の知識が増えているかも知れません。賢くなるかどうかまではちょっとわかりませんけど。いずれにしても、個人的うんちくを愉しんでいただければと思います。
<オープニングテーマ> 「Madison Time」Donald Fagen
僕と柴田さんはもう40年以上前に知り合って、それ以来ずっと折に触れて一緒に翻訳の仕事をやってきました。言うなれば、僕の翻訳の師匠みたいな方です。でも藤井八冠とは違って、なかなか師匠を凌駕(りょうが)するところまでいかなくて、どんどん差が開いていくばかりという感じになっています。でもとにかく、翻訳というものが好きだということに関しては、2人は強い共通項を持っています。 仕事というよりは、なんか暇があるとつい翻訳をやっちゃうという感じなんですよね。今日は主に「私はこうやってポップミュージックから英語を学んできた」みたいな青春期の思い出話になるんじゃないかと思うんですけど、ぶっつけ本番です。さて、どんな音楽が出てくるか、楽しみです。 * 村上:はい、柴田元幸さんです。 柴田:どうも、こんばんは。 村上:柴田さんと僕が初めて会ったときは、まだ大学院を出たばかりの20代の青年だったんですよね。 柴田:ですかね。 村上:当時は東京学芸大学の講師をしていらっしゃったんです。いまでは東京大学の名誉教授です。でもあんまり似合わないですよね。 柴田:はい、似合わないのがうれしいです(笑)。 村上:でも(あれから)40年、長いですね。最初にやったのがジョン・アーヴィングの翻訳で、一緒に手伝っていただきました。 柴田:『熊を放つ』(Setting Free the Bears)でしたね。 村上:楽しかったです。 (TOKYO FM「村上RADIO公開収録~ポップミュージックで英語のお勉強~@The Haruki Murakami Library」2024年1月28日(日)放送より)