「芸人として絶対売れよう」腹をくくった美人おねえさんとの出会い<エバース佐々木「ここで1球チェンジアップ」>
“幸せ”の尺度は人それぞれ
僕は大学を卒業後、上京してすぐ深夜のマンガ喫茶でバイト始めました。 そのバイト先には歌手デビューをするのが夢で、少しだけ芸能活動をしてる美人おねえさんがいて、ふたりっきりのシフトのときはちょっとドキドキしながら働いてました。 そんなある日のバイト中、40代中盤くらいのけっしてきれいとはいえない身だしなみのおじさんとおばさんがベロベロに酔っ払いながら入店してきました。 お互い腰に手を回し、人目をはばからずイチャイチャしている中年カップルの接客を終え、仲よくカップルシートに入っていくその背中を見ながら、歌手志望の美人おねえさんがひと言、 「いいよね、幸せの沸点低いと。人生楽しそうで」 その表情はどこか儚げで今でも脳裏に焼きついています。 数年後、僕はマンガ喫茶のバイトをとっくに辞めていたのですが、ふとあのときの美人おねえさんが歌手デビューできたのかなんとなく気になり、ネットで名前を検索してみました。そこで最初に出てきた画像は、エッチなコスプレをしながら女の子同士でプロレスをする「キャットファイト」に出演している姿でした。 キャットファイトからどういうルートで歌手デビューできるのか僕にはわかりませんが、歌手の夢を叶えるため、きわどい衣装で関節技のキャメルクラッチに耐えるその顔は、あのときのようにどこか儚げで、誰よりもきれいで、僕もこの大都会・東京で芸人として絶対売れようと腹をくくることができました。 本当に幸せの尺度って人それぞれです。 あの美人おねえさんが今どこで何をしてるのか、夢を叶えてるのか、志半ばであきらめたのかまったくわかりません。 人の夢と書いて「儚い」っていいますからね。
文=佐々木隆史(エバース)