大谷翔平の54本塁打、パワーだけじゃない洞察力と技術が伴う「引き出し」増えた 独断チェック
メジャー7年目のドジャース大谷翔平投手（30）が、自己最多の54本塁打を放ち、両リーグをまたぎ、2年連続で本塁打王を獲得した。今や日本人の枠を超え、ケタ外れのパワーで豪快なアーチをかけ続けてきた。ただ、大谷の本塁打は、パワーだけによるのものではない。規格外の特大弾だけでなく、洞察力と技術が伴う、多様性の広がった本塁打こそ、成熟した一端ではないだろうか。日米で30年以上、野球を担当してきた記者が考察した。 ◇ ◇ ◇ 打球速度、角度、飛距離などが即座にはじき出される現在、大谷の傑出した能力は数値が証明してきた。今季の最長飛距離は145メートル、最速の打球速度は時速192キロ…。大谷自身に「長打は僕の持ち味」との自覚はある。ただ、数値はあくまでも指標の1つに過ぎない。大谷の究極の目標が、すべてのストライクゾーンを柵越えすること、に変わりはない。むやみにフルスイングするのではなく、状況に応じて最良の結果を探す。幾多の失敗を繰り返し、正確なデータをインプットした上で、大谷はより多くの本塁打を打つための「引き出し」を、着々と増やし続けてきた。 NPB史上唯一の3度の3冠王を獲得した落合博満は、かつて自らの本塁打論を「オレ流」の言葉で表現した。中堅バックスクリーンへ打ち返すのが理想だとしても、それだけでタイトルは取れない。「外角球は右翼ポール際からドロー、内角球は左翼ポール際へスライスをかけて打つ」。いずれのコースも、たとえバットの芯に当たったとしてもラインドライブがかかり、失速気味にファウルゾーンへ切れていく。だが、少しでも逆回転の力が加われば、切れずにスタンドへ届く可能性は広がる。甘い失投だけでなく、際どい両コーナーを柵越えするための打法が、落合の「極意」だった。 右打者の落合に対し、左打者の大谷の場合、打球方向はその逆だが、たとえプロでも、万人が可能なレベルではない。大谷自身が、落合の「極意」のような感覚を意識しているかは定かではない。ただ、前半戦は中堅方向へ「押し込む」ようなアーチが、球宴前後から格段に多様化した。7月25日のジャイアンツ戦。詰まりながらも角度46度で高々と舞い上がった打球は、右翼ポール際で切れることなく、観客席で弾んだ。理論的には凡飛の可能性が高くても、飛距離は約110メートル。フェアゾーンへ届く一打の着地点を確認した上で、大谷は走り始めた。 8月中旬の敵地カージナルス戦では、2試合連続で右翼後方のブルペンへ低空ライナーで運んだ。「40－40」達成直後の41号、42号を含め、いずれも外角への遅い変化球にタイミングを崩されながら、最後は右手1本ですくうように拾い上げ、フェンスを越えた。開幕直後であれば、左方向へ打ち返すか、または引っかけて内野ゴロになったような難コース。相手の配球に対する備えに加え、術後の右肘が強化されたことを実証するかのような、柔軟性豊かなスイング軌道だった。 「年を重ねるごとに打撃の技術が上がってくる。フィジカルもそうですけど、地力みたいなものが少しずつ形になっているのかなと思います」 遠くへ飛ばす天性の資質に加え、年輪を重ねるたびに、大谷は粗削りだった箇所を修正し、より高い技術を身に付けてきた。パワーに頼らず、高等技術の純度が高いホームランを量産した落合の「極意」にはほど遠いのかもしれない。ただ、世界最高のアーチストへ向け、今季はまた新たなステージへ足を踏み入れたシーズンと言っていい。【MLB担当＝四竈衛】（敬称略）
