かつて基地移転に1.5万人が決起した島は、自衛隊幹部も驚く生地利用 日米演習は生活圏へ入り込む…運動公園も、公民館も
日米共同統合演習が展開されている鹿児島県・徳之島では、衆院選の選挙カーではなく自衛隊や米軍の関係車両が公道を走る。徳之島町花徳の海岸では25日、陸上自衛隊の水陸機動団と第1空挺団がボートやパラシュートを展示した。次々と見学に訪れる住民に隊員が部隊や訓練の内容を説明していた。 【写真】〈関連〉徳之島で訓練が計画される主な場所を地図上で確認する
海岸の目の前に住む農業男性(52)は「何をしているのか分かったので安心。(他国から)攻められないようにしっかり訓練してほしい」。天城町の無職男性(73)は島に防衛施設がないことを念頭に、「政治家は災害対応にも力を発揮する部隊常駐を実現して」と希望する。 防衛省の資料によると徳之島では今回、約30カ所で訓練がある。島には自衛隊や米軍施設はなく、漁港や運動公園、公民館、闘牛場など、訓練場として整備されていない生地(せいち)で行う。生活の場と訓練の距離は近く、伊仙町の犬田布岬では、観光客が通る横で隊員らが無人偵察機の発射台を用意していた。 同じ日米演習がある沖縄県では、生地訓練は新石垣空港と一部の港に限られる。同県基地対策課は「自衛隊や米軍の区域で訓練するよう求めている」と説明する。徳之島のように生地で大規模な演習が続くのは異例で、自衛隊幹部も「これだけできるのは信じられない」と驚く。
地元3町が関連施設を誘致する中で訓練への反発は見えにくいが、複雑な思いを抱える人もいる。徳之島では2010年に米軍普天間飛行場(同県宜野湾市)の移設案が浮上し、1万5000人(主催者発表)の反対集会などで計画は頓挫した。 当時、壇上に立った徳之島町の女性(48)は今回の訓練について、「自衛隊が国防のため頑張っていることは分かる。でも車両や訓練が目に入ると戦争が思い起こされて不安になる」と明かす。14年前、島は移設案を巡って身内間でも賛否が割れた。国策で住民が分断されると「何のために穏やかな島に暮らしているのか分からなくなる。訓練のことは考えたくない」と話す。 徳之島は生物多様性が評価され、世界自然遺産に登録されている。訓練は希少種や固有種が生息する山中でも計画され、伊仙町のサービス業女性(61)は「あり得ない。島の自然を守る活動と訓練は両立できない」と反対する。 衆院選公示後、候補者が島を訪れたり街宣車を目にしたりする機会は少ない。「訓練に対して表立って声を上げられない人もいる。政治家は現場に来て、住民の声をしっかり聞いて」と訴えた。
南日本新聞 | 鹿児島