大坂なおみが全仏初戦で見せた柔軟発想とポジティブ姿勢にサプライズの予感
「エンターテインメントな試合になるんじゃないかしら?」 初戦の対戦相手について問われた時、大坂なおみはそう言うと目尻を下げて、口角をキュッとあげた。初めてシード選手として挑む、全仏オープン開幕直前での会見の一幕だ。 1回戦であたるソフィア・ケニンは、大坂より1歳年少の19歳。米国フロリダ州の同じエリアで育ち、一時期は同じ拠点でともに練習したこともある仲だ。ストロークは安定し、どんなボールも追うファイターで、ドロップショットを巧みに操るテクニシャンでもある……そんな印象を抱いていた同世代との顔合わせを控え、大坂はまるで「楽しんでいってね」と訴えるかのように、悠揚な笑みを浮かべていた。 シード選手の肩書きがそうさせたのか、実際に初戦のコートに立った時、大坂は「普通じゃない」緊張感に襲われていたという。「凄く負けたくない」という結果への執着と同時に、「凄く良いプレーがしたい」という理想への欲求もいつも以上に胸を占める。その緊張感は大坂に、硬さではなく、集中力をもたらした。コースに変化をつけながら打ち合いを制御し、好機が訪れると見るやトリガーを引くように強打を放つ大坂が、第1セットを6-2で奪い取った。 31分しか要さなかった第1セットが終わった時、ケニンは長い長いトイレブレークを取る。 ウェアを着替え、ようやくコートに戻ってきたケニンは、第2セットに入ると一球ごとに声をあげて自らを鼓舞しながら、攻撃的に攻めてきた。大坂が警戒していたドロップショットは滅多に打たないが、ストレートに撃ち込まれる強打の精度が高い。第1セットの展開を鏡写ししたように、第2セットはケニンが5-1と一気にリードを広げた。 この時、大坂の脳裏を「第2セットは捨てて、第3セットに集中しよう」との思いが一瞬よぎった。だが、全仏オープンも3度目の出場となる大会第21シードは、ふと思う。 「対戦相手は私よりも若い。セットが取れそうになり緊張している。もしプレッシャーを掛けていけば、なにか起こるかもしれない……」 それは既にこのレベルの戦場に2年以上身を置き、ツアータイトルも獲得した経験があるからこそ生まれた発想だったろう。まずは、サーブのコースを修正することにより入る確率を引き上げ、リターンからも果敢に攻めた。すると大坂の読み通り、今年トップ100入りしたばかりの対戦相手は、硬さからかショットが途端に精度を欠く。その心のゆらぎを見逃さぬ大坂は、第11ゲームでは2本のエースを含む4連続ポイントで、相手に息を吹き返す間も与えず畳み掛けた。ゲームカウント1-5から6ゲーム連取し、その間、相手に与えたポイントはわずかに4。 安定の展開から突如迎えた危機を経て、最後は猛攻による逆転劇――戦前に宣言していた通り、「エンターテインメント性」に満ちた試合運びを披露した大坂が、終わってみれば圧勝とも言える白星をつかみ取った。