【優しい社会の一歩に】手話言語条例(12月19日)
手話言語条例の制定が全国で進み、県内では県と19市町村が定めている。講演会やテレビ番組などで接する機会が増え、手話は身近になりつつある。ろう者のオリンピック「デフリンピック」が来年11月に東京都を中心に開かれ、県内ではサッカー競技が予定されている。一層の普及と理解を深める好機と捉え、誰もが尊重し合う社会づくりを加速させたい。 「手話は言語」との認識を広め、ろう者が手話を使いやすい社会づくりを目指す趣旨が条例にはある。国連が2006(平成18)年に採択した障害者権利条約で、正式に「言語」と認められた。国内では2011年の障害者基本法の改正で「言語(手話を含む)」と明記された。 全日本ろうあ連盟によると、全国で11月現在、549自治体が条例化した。東北地方で初めて2015年に定めた郡山市は、東日本大震災を踏まえて「災害時の対応」を盛り込んだ。手話を使った救出を防災訓練に取り入れ、簡単な手話を描いた「コミュニケーションボード」を避難所に設置している。学校や医療機関、公民館などでの手話講座の開催にとどまらず、手話動画や市民参加の手話歌の配信にも力を入れる。さまざまな機会を増やす努力は、ろう者への理解促進に役立つ。
郡山市は専任職員3人を採用し、市民ら約40人の登録者とともに手話通訳に対応している。2010年度の利用は医療や教育現場を中心に約1900件だったが、近年は5千件前後に増えている。施策の周知が進んだ結果でもある。ただ、市町村が単独で手話通訳者を雇用するのが財政的に難しい場合もあり、協力する体制づくりも必要だろう。 救急現場での手話対応も進めたい。郡山市と郡山地方広域消防組合は昨年、市障がい福祉課と救急車をつなぐ遠隔手話サービスを始めた。現在は市内限定だが、市町村の枠を超えた連携も望まれる。さらに、県内12消防本部が統一した取り組みを導入すれば、ろう者の一層の安全・安心確保に結び付くはずだ。 「ありがとう」「大丈夫ですか」など、周囲がちょっとした手話を使えるようになるだけでも、暮らしやすさは増すのではないか。誰一人取り残さない地域づくりの一歩にもなる。(湯田輝彦)