「子育て支援金」を医療保険料で取る新たな「実質増税手法」は愚の骨頂
健康保険財源の「目的外使用」
結局は取りやすいところから取るということなのだろう。「子ども・子育て支援金」の財源を、公的医療保険の保険料に上乗せして徴収する法案を政府・自民党が押し通そうとしている。少子化対策の「子育て支援金」だと言えば、誰しも反対はしにくい。それを良いことに財源を「医療保険」から持っていこうというのは、かなり筋が悪い。 【写真】小室圭さんの様子がおかしい…2年前とはまるで別人 医療保険制度はあくまで「保険」なので、保険料によって賄われるのが前提だ。万が一病気になった場合の医療費を保険がカバーし、自己負担を低く抑えることができる。世界に冠たる仕組みだ、と政治家も役人も胸を張ってきた。だが、高齢化で医療費が大きく膨らんでいることもあり、決して医療保険制度に余裕があるわけではない。 にもかかわらず、その保険料に上乗せして「子育て支援金」の原資を集めるというのだ。子育て支援と健康維持は本来まったく関係がない。病気のリスクに備えるという健康保険の目的と、子育てを支援することに直接的なつながりはない。子どもが増えれば健康保険にとってもメリットがあるというのは屁理屈だ。 健康保険財源の「目的外使用」をいったん許せば、今後、さまざまな施策の財源として使われ、そのたびに保険料が上乗せされることになりかねない。国民の健康を守るには安全も必要だとなれば、防衛費にだって回すことができるかもしれない。それほど政府にとって都合の良い「財源」として健康保険料上乗せが使われようとしているのだ。
どう考えても可処分所得は減る
4月9日にこども家庭庁は支援金制度に伴う徴収額の試算を公表した。会社員などが入る被用者保険での、年収別の徴収額が初めて明らかになった。年収600万円の従業員の場合、2026年度は月額600円、27年度は月800円、28年度には月1000円が徴収される。年間にすれば12000円だ。夫婦共働きの場合、この2倍を負担することになる。また、同額を企業も負担しなければならない。さらに年収が増えれば負担額は増えていく。 本来は税金で賄わなければならないものを、保険料を給与天引きで徴収すれば、国民は文句を言う余地がない。実質的な「増税」を、国民に分かりにくい形で導入しようというわけだ。 この制度の導入に当たって岸田首相は、「実質負担はない」と言い続けてきた。徴収される金額が増えるのに、実質負担が増えないというのは理解に苦しむが、賃上げによって賄えるという。 おかしな話である。賃上げするのは企業の努力であって、岸田首相が求めたからと言って、中小企業が自動的に賃上げするという話ではない。徴収額の試算も、法案を通すギリギリになって公表、国会での議論を封じようという姿勢は明らかだ。野党も法案の撤回などを口では求めているが、国会の多数を握る自民党に本気で抵抗できるとは思っておらず、反対したというアリバイ作りに終わりそうだ。 岸田首相は「物価上昇を上回る賃上げを実現する」と言い続けているが、物価上昇率を引いた実質賃金は、2月まで23カ月連続でマイナスを続けている。賃金(名目)は上がっても、それ以上に物価が上昇しており、生活は苦しくなる一方だ。そこに社会保険料の徴収額増加が加われば、どう考えても使えるお金、可処分所得は減る。