梅枝から六代目中村時蔵へ。歌舞伎座で襲名披露、初日に「ぐっと来た」瞬間とは? 楽屋風景も特別公開!
楽屋も特別公開! 襲名披露の舞台裏
初日から数日を経たある日、公演中の楽屋に時蔵さんを訪ねました。舞台の様子や加え五代目中村梅枝を襲名されたご子息との楽屋風景をお届けします。 時蔵さんの楽屋を訪ねたのは『妹背山婦女庭訓 三笠山御殿』が開演する1時間ほど前のこと。時蔵さんはお白粉によるベースメイクが終わり、紅によるポイントメークにとりかかっているところでした。 ピリピリと緊張した空気なのかと思いきや、時蔵さんは穏やかな表情で至って和やかな雰囲気。傍らには梅枝さんの姿もあり、時に親子で会話しながら手際よく筆を動かしています。歌舞伎の化粧は俳優さん自身が行うのが常で、例外は小さな子ども。そして豆腐買いおむらの娘・おひろで『妹背山婦女庭訓』に出演している梅枝さんにもお化粧を始める時間がやって来ました。 梅枝さんのお化粧を担当するのはお弟子さんです。梅枝さんは白粉を塗っている最中に時蔵さんに話しかけてしまい、お弟子さんにやんわりとたしなめられてしまいました。口元に差し掛かったところだったのです。その様子に確かな信頼で結ばれたご一門の皆さんの人間関係が垣間見えます。 その後、20分ほどで時蔵さんのお化粧は完了。あまりの早さに歌舞伎の楽屋に入るのは初めてだというカメラマンはびっくりした様子です。 楽屋の外では別のお弟子さんが舞台で使う小道具の準備をしています。ほどなくしてお三輪の着付けを担当する衣裳さんが姿を現しました。 着付けの様子を、梅枝さんが興味深そうに見つめています。この時の親子の話題は歌舞伎の歴史について。といっても堅苦しい内容ではなく、梅枝さんの素朴な疑問に時蔵さんが答えるというものでした。こうして日常の中で歌舞伎に接していくうちに、子ども心に歌舞伎に対する好奇心が芽生えていくのでしょう。
プロフェッショナルなスタッフに支えられて
時蔵さんの着付けが終わると梅枝さんが鏡台に向かい仕上げにとりかかりました。お弟子さんに頼らず自分でお白粉を手に塗り始めたのです。自立心旺盛なタイプ、なのでしょうか? 鬘を手に床山さんが姿を現しました。丁寧に様子を見ながら微調整していきます。 1時間にも満たないわずかな時間の中でとにかく印象的だったのは、すべてのものごとが穏やかに手際よく進んでいったことです。お弟子さん、スタッフ含めて関わる人すべてがプロ意識を持ってそれぞれの仕事と真摯に向き合い取り組んでいる証ではないでしょうか。 すべてが整い、静かに出番を待つ時蔵さんの向こうにはまるで同じ姿のお祖父さまの絵が。萬壽さんが幼少の頃にご逝去され写真や絵でしか知らない四代目に思いを馳せ、五代目である萬壽さんから受け継いで演じる時蔵さんのお三輪、歌舞伎座で上演中の『妹背山婦女庭訓』は六代目としてのスタート、二度とない記念すべき舞台です。
清水まり