停電、寸断、乳牛もピンチ 能登半島地震 農業への影響
搾乳困難、餌切れも
能登半島地震による、農業への影響が明らかになってきた。特に酪農への影響が深刻化している。停電で搾乳できない農家や、道が寸断されて集乳できない農家が相次ぐ。餌の在庫切れも迫り、農家は危機感を募らせる。 「飼料高騰で酪農経営は元々厳しかった。今回の地震は泣きっ面に蜂だ」。石川県能登町で乳牛約50頭(うち搾乳牛約30頭)を飼養する西出牧場の西出穣代表は肩を落とす。 震度6弱を観測した同町。西出代表は牛舎に行こうと隣接する自宅の玄関にいたところを、激しい揺れに襲われた。とっさに柱にしがみつき、何とかしのいだ。 牛舎に行くと、牛が興奮してしきりに鳴き声を上げていた。落ち着かせるために餌を与えた。牛舎は屋根が一部崩れ、壁もところどころ剥がれ落ち、大きく損傷していた。牧草地には大きな地割れができた。
断水、飲み水不足
西出代表の頭を悩ますのが断水だ。牛の飲み水を十分に確保できない。川の水をくんで与えているが、乳量は通常の2分の1~3分の1に落ち込んでいるという。 同牧場は電気が早期に復旧したため、乳房炎の予防へ搾乳は可能だ。だが、牧場につながる道路の損傷は深刻で、集乳車が通れない。通常1日700リットル(約10万円に相当)を搾乳しているが、出荷できずにいる。飼料の運搬車も入れず、備蓄もあと1週間ほどで底を突くという。 西出代表は「能登地域の酪農は窮地に立たされている」と話す。県内の農業関係者によると、停電で搾乳できず全頭廃用を検討している農家もいる。牛舎が倒壊し、牛が生き埋めになった農家もいるという。 石川県酪農業協同組合によると、県内31戸の農家のうち、珠洲市5戸、能登町5戸、穴水町2戸、七尾市1戸の13戸が集乳できていない。まずは水不足を解消しようと同組合は4日、水の運搬車の確保を北陸酪農業協同組合連合会に要請。週明けから運搬できるよう検討を進めている。(北坂公紀、島津爽穂)
農業施設で被害多数 農水省5日現在
農水省は5日、能登半島地震による農林水産関係の被害状況を更新した。同日午後4時15分現在で、石川県の畜産農家で停電18件、断水47件、牛舎などの施設損壊35件を確認。道路損傷で集乳ができないなどの被害も35件に及んでいる。近隣県でも農作業小屋の倒壊や園芸ハウスの液状化などが発生している。 農業用施設などの被害は、石川県で41カ所、富山県で29カ所、福井県で12カ所、新潟県で8カ所、長野県で2カ所、岐阜県で1カ所など。 決壊を防ぐため点検対象となっている防災重点農業用ため池のうち、石川県で38カ所、富山県で1カ所、堤体が損傷。 被害は調査中で今後膨らむ可能性がある。農水省は災害対応のため、本省と地方農政局などから延べ128人を被災県に派遣した。
日本農業新聞