「白亜紀末大絶滅」から生物はどのように復活した? 古生物学者・池尻武仁博士の「生物40億年:北米アラバマからのメッセージ」
南極にも及んだ「環境の大異変」
研究は当時の海底付近にすんでいた無脊椎動物――主に二枚貝や巻貝、アンモナイトなどを含む「軟体動物群(Mollusca)」――に的を絞っている。砂浜の海岸線に散らばる無数の貝殻の破片を、ぎゅっぎゅっと踏み鳴らしながら歩いた経験を思い出していただきたい。こうした軟体動物は、現在の海辺においても非常に多くの種と個体が見られる。 非常にたくさんの個体が存在するということは、それだけ詳細に種の変遷・絶滅パターン、そして白亜紀末あたりの海環境の変化などの情報を得ることが期待できるということだ。それに比べて、希少で種の数も少ない恐竜の化石データでは、このようなディテールに迫ることは、ほぼ不可能だろう。 研究チームは1999、2006、2010年の3回にわたり、南極・シーモア島において化石を発掘した。採集した軟体動物の殻の化石の標本は約3000点。巻貝や二枚貝、アンモナイトなど種の数はトータルで63種に及んでいる。 これらの化石は約63.1メートルの厚さに及ぶ露出した地層から見つかった。研究チームは、全ての化石について、この地層の中の具体的にどこから採取したのかを、センチ単位で克明に記録していった。 論文によると、約63.1メートルの地層は、白亜紀末の境界線(6604万年前と推定)を含み、少なくとも約6630万年前~約6569万年前の約61万年分にあたるものがあると推定されている。 そして、3000点に及ぶ軟体動物の採取箇所の記録などを詳細に分析した結果、全てのアンモナイトの種、そして多数の貝の種が、6604万年前、つまり境界線までに絶滅したことを示していたという。「北米メキシコ湾の巨大隕石大衝突」と「インド大陸における大規模な火山の噴火活動」――。この二つが白亜紀末時に起きた恐竜を含むさまざまな生物グループの大絶滅の主要因として、今のところ研究者によって提案されている仮説であるが、当時の南極の海底においても、何かしら「環境の大異変」が起こったことを示している。北半球で起きた環境の大激変が、はるかかなた南極に生息していた海生動物に、具体的にどのようなダメージを与えたのだろうか。それを考えると、興味が尽きないところだ。