『ヒカルの碁』に続くか? 囲碁マンガ『星空のカラス』
かつて『ヒカルの碁』という大人気漫画があった。この漫画に影響を受けて囲碁を始めた子供は数知れず、そこから成長してプロになった棋士もたくさんいる、伝説の漫画だ。そして10年経った今、囲碁漫画が再び注目を浴びている。「対局になると寝食を忘れて盤面に集中する」「腕をケガしても治療より対局を優先」。そんな囲碁棋士の姿がリアルに描かれている。『花とゆめ』(白泉社)に連載中の少女漫画・『星空のカラス』だ。
強いことってカッコいい!? 話題の囲碁少女マンガ
主人公は13歳の中学生・烏丸和歌(からすま・わか)。囲碁が大好きで、オシャレや恋愛よりも囲碁に夢中な女の子。そんな和歌がふとしたきっかけでプロ棋士の鷺坂総司(さぎさか・そうじ 17歳・イケメン)に出逢い、プロの世界に憧れを抱き、棋士を目指す、というストーリーだ。 しかしこの漫画、ただの少女マンガと侮ってはいけない。プロ棋士やプロを目指す子供たちの世界、対局における心理など、その描写がとても繊細に描かれているのだ。例えば、ライバルとの対局に向かうのが怖いと言う主人公に対して、棋士である鷺坂が言った言葉。 「自分だって怖い。いつだって怖くて怖くて、初手を打つのが怖くてたまらない」 いつも冷静沈着に見えるプロ棋士も、実はその内面ではいつも葛藤を抱えている。対局ができることが喜びである反面、自信がなかったり、調子が悪いときには打つことが怖くてたまらない。足がすくんで対局に迎えないこともある。そんな棋士の心理が伝わってくる場面だ。 ある大会で「お前、弱いな」と相手を見下した発言をする少年に出遭った主人公。少年の態度に憤慨し、文句を言いに行こうとすると、「自分の正しさは勝って示せ」と棋士の鷺坂が諭す場面も。 碁の強さが全ての世界では、盤上で結果を出すことこそが自分の意思につながる。もちろん少年の態度が良いわけではない。ただ相手の主張が納得できなければ、勝って相手を納得させるしかないのだ。 囲碁は別名を「手談」といい、1手1手が相手との対話でもある。実際には言葉にすることはないので本心はわからないが、対局中には揺れ動く心の変化がある。例えばある対局の場面での心の動き。 油断して失敗する→絶望→でも諦めたくない→気持ちを切り替える→諦めずに頑張る→チャンスが見つかる→逆転→勝利 こんな心の動きを追うだけでも、手に汗を握ってしまう。 作者であるモリエサトシさんは、実は囲碁は初心者だという。そのため、細やかな心理描写を描くため、綿密な取材と膨大な資料を読込んでいるそうだ。 現在は院生(プロ棋士を目指す養成機関に入ること)になった主人公。プロ同士の戦いはもちろん、プロ棋士を目指す子供たちが、鍛練を重ねながらプライドをかけて戦う様子が描かれている。 強いことはカッコイイ。そしてその強さの裏には実は優しさがある。勝負の世界で戦っている登場人物1人1人が、カッコ良く思えてくるこの作品。あなたはどの登場人物に感情移入するだろうか。 漫画『星空のカラス』は白泉社『花とゆめ』に連載中。毎月5日、20日発売。 (ライター 王真有子)