「シブ5時相撲部」生んだ遅咲きの好角家アナウンサー 田中知子さん(青森・八戸市出身)
「力士の肌はきらっ、きらっの真珠みたい」。青森県八戸市出身のフリーアナウンサー「たなとも」こと田中知子さん(44)は筋金入りの「スー女」(相撲好きの女性)である。大相撲の話になると、時間はいくらあっても足りない。男性優位の現場に飛び込み、体当たり取材で培った経験は財産となった。今度は皆に還元したいと思い描く。 相撲には「日本の美が詰まっている」と言う。毎場所、一から作り上げる土俵や、その場所一回きりしか使わないしこ名入りののぼり旗、何よりわずか数秒で勝負が決まることもある取組に「そのはかなさが美しい」とため息を漏らす。 大相撲好きは2011~15年、NHK青森の夕方ニュース番組「あっぷるワイド」のキャスター時代にさかのぼる。局内にいれば場所中の平日は毎日、本番直前まで大相撲中継が目に入る。知らず知らずのうちにとりこになった。 あっぷるワイドを退くと今度はディレクター兼リポーターとしてNHK本局の「ニュースシブ5時」へ。そこで、好角家のエッセイスト能町みね子さんと組んで「シブ5時相撲部」のコーナーを一から作り上げた。以後4年間「相撲愛にあふれた女性目線」で大相撲の魅力を分かりやすく多角的に伝えた。 田中さんが大学卒業後、社会人生活の一歩を踏み出したのは求人広告販売の代理店。放送現場への転身は30歳を超えてからだ。「モノを媒介するのではなく私自身を商品にした仕事をしたい」というのが動機である。ただ周囲からは「今ごろ?」「大丈夫?」と心配された。 しかも新天地でのスタートは東日本大震災の直後。決して楽な時期でも現場でもない。「必要以上に暗くならないこと。寄り添いすぎないように」を心がけながら場数を踏んだ。 「遅咲き」でも、ここが生きる道と望んで飛び込んだ世界。田中さんは「やりがいしかなかった。地元のことを自分の言葉で伝えられる、そしてこういう時期だからこそ、地元出身の私が震災から復興に向かう青森のことを伝えられるのは幸せだった」。古里八戸の話題の掘り起こしにも努め、感謝の声に頰を緩める日々を送った。 現在は八戸市と東京都武蔵野市のFM番組に出演している。その傍ら、数多くの力士取材を通して得た意思疎通のこつや傾聴法を「相撲取材に学んだ『金星コミュニケーション』」と称し、各地で開かれる講演会に飛び回っている。 この春、自らを社長とする「ちゃんこえ」を設立した。自分の声を聞いた相手の心がちゃんこを食べた時のようにほっと温まってほしいとの思いを社名に込めた。講演やメディアへの出演、司会業のほか、将来は大相撲イベントの開催、海外での事業も夢見る。「自分の声と言葉でたくさん人々を幸せにするのがパーパス(目標)。私が魅力を感じてきた相撲から学んだことでお役に立てれば」 ◇ <たなか・ともこ 1980年八戸市下長生まれ。聖ウルスラ高英語科、聖心女子大卒業後、求人広告代理店の営業職へ。2008年、アナウンサーを目指すために退職。アナウンススクールに通いオーディションを受け続け11年、NHK青森放送局「あっぷるワイド」のニュースキャスターとなる。15~19年には「ニュースシブ5時」でリポーター・ディレクターとして全国各地を取材。19年に独立し、24年に「ちゃんこえ」起業>