「トランプ大統領」再登板でウクライナは見捨てられるのか? 最悪のシナリオは「アメリカのNATO離脱による大混乱」
アメリカ内戦とNATO離脱の可能性
最悪のシナリオは2つあるという。まず1つ目はトランプ大統領の施策が成功せず、アメリカ国民が失望を感じた場合だ。 「その際、注意すべきなのは現在のアメリカでは深刻な分断が進んでいるということです。客観的に見てトランプ氏の政策が失敗したことが明らかになったとしても、トランプ氏の熱狂的な支持者は失政を認めないでしょう。トランプ大統領に失望した層と、あくまでも擁護する層の対立が深刻化すると、私はアメリカが内戦状態に陥っても不思議ではないと考えています。連邦議事堂襲撃事件でも、異常な重武装の“民兵”が出現しました。アメリカの内政が混乱すると、外交に目を向ける余裕がなくなります。国内の治安情勢が極端に悪化することで、ウクライナ問題をアメリカが忘れてしまう可能性があります」(同・佐瀬氏) 2つ目は、アメリカがNATO(北大西洋条約機構)と距離を置くことによる混乱だ。トランプ氏はこれまでにも何度もNATO離脱をちらつかせてきた。 「NATOはアメリカの“核の傘”を前提にしています。60年代、フランスのシャルル・ドゴール大統領は光栄あるフランスを取り戻すため、NATOから脱退することを検討しました。フランスは核保有国ですが、もし核攻撃を受けたとしても、NATOに加盟していればアメリカの反撃能力に期待できます。核抑止力が成り立つわけですが、フランス一国だけでは反撃能力が足りません。そのためフランスはアメリカの“核の傘”に入ることを選び、NATO離脱を断念したのです」(同・佐瀬氏)
石破首相がやるべきこと
ただし、フランスは断念せざるを得なかったとしても、アメリカはNATOを脱退することが可能なのは言うまでもない。 「ロシアに近いポーランドなどのNATO加盟国は、ウクライナ戦争を間近に見ながら『次にロシアはわが国に侵攻してくるかもしれない』と脅威を感じています。彼らにとってウクライナ支援が打ち切られるかどうかという問題は、自分たちに直接関係のあることなのです。ロシアと交渉したいトランプ氏と、ロシアを封じ込めてほしい東欧の旧社会主義国家では温度差があまりに大きく、NATOに亀裂が生まれかねません。NATO分裂という事態になれば、やはりウクライナ支援が後退する可能性が生じます。これを防ぐためにはイギリス、フランス、ドイツの3カ国首脳が共にアメリカを訪問し、4カ国協議でNATOの団結をトランプ氏に迫るしかないでしょう」(同・佐瀬氏) トランプ氏が大統領に就任すると、国際情勢は激変する可能性がある。最後に石破首相はどうすべきなのか、佐瀬氏に聞いた。 「私は石破さんに会ったことがありますが、正直な人という印象を持ちました。ただし、トランプ氏と会談する際は、そうした正直さは封印したほうがいいと思います。とにかく相手は稀代のペテン師ですし、会えば『約束を取り付けさせよう』、『言質を取ろう』と考えているに違いありません。何かを約束するだけで日本にとってはリスクです。表面上は友好な関係を維持しながら、なるべく関わりあいにならないよう逃げてくるのが最も日本の国益に適うと思います」(同・佐瀬氏) デイリー新潮編集部
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