『呪術廻戦』の世界を彩る珠玉の名曲たち 原作完結を前に振り返るKing Gnu、Eveらアニメ主題歌の軌跡
8月19日、漫画『呪術廻戦』が9月30日発売の『週刊少年ジャンプ』(集英社)2024年44号で完結することが発表された。2023年末に開催された『ジャンプフェスタ2024』のステージで、原作者である芥見下々が、2024年に『呪術廻戦』の完結を示唆する発言をしていたが、有言実行で人気連載に終止符を打つ。 【写真】King Gnu 井口理、『呪術廻戦』渋谷事変OP「SPECIALZ」のために滝行 『呪術廻戦』は、人間の負の感情から生まれる呪霊を祓う呪術師たちの戦いを描いたダークファンタジー・バトル漫画である。連載当初からバトルシーンの生々しい描写もあり、“ジャンプの中でも異色”“少年ジャンプが可能なギリギリを攻めてる”と話題になり、人気連載となった。「全国書店員が選んだおすすめコミック2019」一般部門で1位、「みんなが選ぶTSUTAYAコミック大賞 2019」では大賞を獲得している。そんな中、『呪術廻戦』の人気を決定付けたのがアニメ化である。2020年10月からスタートしたTVアニメ(MBS/TBS系)は、第2期『渋谷事変』第47話(最終話)まで放送されており、続編『死滅回游』の放送決定もすでにアナウンスされている。また、『呪術廻戦』の前日憚となる「東京都立呪術高等専門学校」を原作に、2021年12月24日に公開されたアニメ映画『劇場版 呪術廻戦 0』は、全世界興行収入265億円突破の大ヒットを記録した。集英社とMAPPA(アニメ制作会社)がタッグを組んだ『呪術廻戦』のアニメ化。その中には、原作のキャラの魅力を活かしたキャラデザイン、“術式反転「赤」”や“術式順転「蒼」”、“虚式「茈」”など強力な呪術を展開する名シーンの描き方、主題歌とクレジットムービー映像のシンクロ率の高さなど、斬新で魅力的なファクターが数多く散りばめられていた。結果、アニメ『呪術廻戦』シリーズから、数々のヒット曲が生まれたのは誰もが知るところだろう。 本稿ではTVアニメ『呪術廻戦』シリーズの主題歌を軸に、その魅力を掘り下げていきたい。 TVアニメ『呪術廻戦』最初のオープニングテーマはEve「廻廻奇譚」である。スタイリッシュなこの曲を主題歌に作り上げたところに、制作陣が『呪術廻戦』という原作をどのように捉えていたかがわかる。原作ファンであることを公言しているEveが手掛けた「廻廻奇譚」は、言葉が詰め込まれた複雑な譜割りが炸裂するスピードチューンで、サビではエモーショナルな展開を見せる。サビでの言葉の発音は特に強く、呪術師と呪霊が帳の中で繰り広げる激しい戦いを連想させる。また歌詞には、原作ファンならどのシーンに対する布石なのか思わず想像してしまう言葉も並んでいる。〈極楽往生〉という非現実的な四字熟語(造語も含む)と〈走って 転んで〉といった、高校生の日常を描いたような口語体を不規則に繰り出し、呪術師たちの日常がいかにカオスであるかをイメージさせることに成功している。〈五常を解いて〉というワードも、原作を相当読み込み、その世界観を理解している人にしか出てこないだろう。 続いて触れたいのは、King Gnuの楽曲群。彼らはアニメ映画『劇場版 呪術廻戦 0』の主題歌「一途」、同エンディングテーマ「逆夢」、並びにTVアニメ第2期『渋谷事変』のオープニングテーマ「SPECIALZ」を担当している。この3曲の中でピックアップしたいのは「逆夢」だ。流麗なストリングスと井口の繊細なファルセットから始まるこの曲は、転調を繰り返しながら、Aメロ、Bメロ、サビとまったく違った表情を見せていく。繊細なストリングスを響かせながらも、リズム隊やギターソロではロック然とした趣きを見せる、バンドと常田俊太郎によるアレンジの才気が光る1曲だ。「逆夢」の凄さは、タイトルに集約されている。『劇場版 呪術廻戦 0』の主人公である乙骨憂太は、幼い頃、結婚の約束をした少女・祈本里香を交通事故で目の前で失い、即死した里香は特級過呪怨霊となり、乙骨に取り憑く。里香の呪いに苦しめられる乙骨は、五条悟の誘いで呪術師になる。だが、里香の呪いは、乙骨が里香にかけたものだったーー幼い恋の純粋さ、尊さ、そして最後に乙骨が真実に気がつくところまで「逆夢」という一言で、すべて表現していると思う。 次は、TVアニメ第2期『懐玉・玉折』の2曲を取り上げたい。オープニングテーマはキタニタツヤ「青のすみか」、エンディングテーマが崎山蒼志「燈」である。同起用でこの2人のシンガーソングライターを知ったといった人も多いだろう。ここで触れておきたいのが、楽曲のクレジットムービーのシンクロ率とクオリティの高さだ。第2期『懐玉・玉折』は、五条と夏油傑の学生時代のエピソードがメインとなっている。2人の青春を、オープニングは五条のイメージで、エンディングは夏油のイメージで描かれているように思う。ただ両方とも“青春のワンシーン”を切り取っていることには変わりなく、同じテーマを異なるアプローチで魅せているMAPPAの手腕がお見事だ。共通して“刹那”を感じさせるところも原作への深いリスペクトを感じる。