「貿易船が日本の港を避ける!」輸送の遅れが招く“競争力低下”の深刻度
かつては水産物の争奪戦で中国に敗れ問題になった「買い負け」。しかしいまや、半導体、LNG(液化天然ガス)、牛肉、人材といったあらゆる分野で日本の買い負けが顕著です。2023年7月26日発売の幻冬舎新書『買い負ける日本』は、調達のスペシャリスト、坂口孝則さんが目撃した絶望的なモノ不足の現場と買い負けに至る構造的原因を分析。本書の一部を抜粋してお届けします。第4回。
日本の港を避けることが恒常化
日本に寄る外航船の便数が減っている。日本は運んでもらえない国になっているのだ。 たとえば北米西岸コンテナ航路で、東京港に寄港した隻数の変化を見てみよう。2021年には前年比3割減の月が目立ち、2022年前半ではさらに前年比5割減となっている。 横浜港や大阪港、神戸港も2年連続で同じような前年比マイナスの月が目立つ。また、北米西岸コンテナ航路以外で確認しても、2021年には前年比で大幅な減少となっている。 もっとも、近年の寄港数減少は日本だけが引き起こしたとはいえない。2020年前半に新型コロナウイルス騒ぎがはじまった。そのときには全世界的に人びとの動きが止まり荷動きも止まった。しかししばらくすると反動として巣ごもり需要が高まった。 パソコンやテレビをこの時期に買い替えた読者は多いかもしれないが、とくに米国は景気刺激策もあって需要が激増した。中国や他のアジアから米国向けの貨物が伸びた。むしろ2020年後半からはコロナ禍前を上回るようになり、2021年前半にはピークを迎える。 しかし需要が旺盛なのはいいものの、供給面ではトラックドライバーなどの労働者が不足した。感染者は当然として、濃厚接触者も従業できなくなり、さらに処理しきれないコンテナがあふれ、倉庫の空きスペースもなくなった。 またコンテナ自体は主に中国で生産されているが、2020年は中国のゼロ・コロナ政策によって工場が稼働せず絶対数が不足した。 北米西海岸や中国などでは港湾の混雑が深刻化。海上運賃が高騰した。米国西海岸では100隻以上が停泊、あるいは低速運航を続け入港を待ち続ける異常事態が生じた。積地でも揚地でも遅延が発生。リードタイムが大幅に遅れた。 コロナ禍を原因として、日本に寄る予定だった隻数が減少してしまった。それ以上は遅れるわけにはいかなかったので船舶各社は日本を“素通り”した。たとえば米国から日本に寄って荷物を積むはずのコンテナ船が、時間がないからと空のコンテナのまま中国に向かう、などだ。これを抜港(ばっこう)と呼ぶ。 国際輸送では混乱が生じてしわ寄せをこうむる国があるのは必然だった。とはいえ、問題は、世界から限られたパイ=コンテナを日本が振り向けてもらえなかったことだ。 日本の優先度はもはや高くなかった。さきの例でいえば米国から日本に寄るよりも、早く中国に戻して次の便として出港したほうが儲かるためだ。 そもそも日本の港を避ける抜港は、阪神・淡路大震災がきっかけとされる。神戸港にどうしても寄れなかった船舶らは釜山港を利用した。1994年に世界6位の神戸港はそこから世界順位を落としていった。2021年は73位であった。一度、避けた船舶会社をふたたび日本に振り向かせるのは容易ではない。