「本当にあった」に学ぶ、トレッキングの撤退ライン「積雪時の涸沢登山」
目的地はまだ先、でもこの装備で行けるのか?
涸沢ヒュッテで休憩しながら雪面を眺めていて、ふと考えました。 「雪は日射でかなり緩んでる。ザイテンにとりつくまでの雪面でもしも滑ったら、カールの底まで止まらないかもな。アイスアックスも持ってないしな……」 そう、じつは、この時期の雪の状況のことをあまり考えてなかったことに、ここまで来て気づいたんです。 通常、ゴールデンウイークあたりの残雪期だと、このコースは完全に雪山仕様です。この先は岩稜帯もあるし、前爪のあるクランポン(アイゼン)とアイスアックスを携行するのが当たり前。 なのに、下界が初夏なもので、残雪はあるとは思ってたけど、積雪期同様の装備が必要かも? とは、ひとかけらも想像できなかったんです。バカかよ、自分……(←たぶん。) いちおう、なるべく近くまで行って目視確認をしておこう。涸沢小屋まで行って、上部を観察。無理っぽいなと思いつつも、小屋のスタッフに「この先、雪はどうですかねー」と未練がましく聞いてみたりとか。 じつは、前爪のないチェーンスパイクでも、なんとか登りはいけるんじゃないかなと思ったのですが、下りがヤバい。 逆に残雪がびっしりついてるなら、新穂高温泉側へ降りれば大丈夫なんじゃないか? とも思ったのですが、小屋の人に聞いてみたら、白出沢は小屋のスタッフでもまだ近寄れない状態だとか。雪崩の巣ですよね…… あきらめるしかない。
敗退の原因は装備の不備=想像力の欠如
5月の穂高は知っていても、6月の状態を知らなかった自分の想像力のなさが今回の敗因です。 「涸沢で敗退かぁ……。情けないにもほどがある」と泣きたくなりましたが、現地の状況をきちんと確認もせずに来てしまった自分が全面的に悪い。 スケジュールとの兼ね合いで、天候推移を読みながら急遽入山を決めたので、ツメが甘かったというのもあるのですが、ソロだったので、誰かに恨まれることもなく、自分の愚かさを呪うだけですんだのは不幸中の幸いでした(?) すごすごと来た道を引き返しながらも、計画変更を検討。あと二日あるし、どこへ転戦しようかな。 しかし、「梅雨時の晴れ間」で、奇跡的にスケジュールが空いてるタイミングって、レアすぎる。「また来ればいい」と思いながら下ったけど、そんな機会、いったいいつ訪れるんだ……?
根岸真理