<学生43人失踪>メキシコで何が起こっているのか? 終息しない麻薬戦争
警察や政治家と麻薬組織の癒着
今回の事件によって、警察や政治家と麻薬組織の癒着が改めて注目されました。莫大な資金を持つ麻薬組織が警察官に賄賂を贈るといったレベルではなく、市長や警察の幹部が麻薬組織に市民の殺害を依頼するという映画のような話が現実に行われているのです。 メキシコでは国内の麻薬ビジネスが7つの主要カルテルによってコントロールされており、対立する組織のメンバーや市民による自警団を殺害するために、それぞれの麻薬カルテルは現職の警察官にパートタイムで仕事を依頼するケースが少なくありません。組織の豊富な資金力が結果的に多くの汚職警官を生み出しているとされます。メキシコが抱える「癒着」の問題について、同国第3の都市モンテレイで活動するジャーナリストのオズワルド・オルネラスさんが語ります。 「2006年に誕生したカルデロン政権は麻薬組織の壊滅に取り組み、幹部メンバーの逮捕といった一定の成果は出しました。麻薬戦争はニエト政権になった現在も継続中ですが、すでに8万人以上が殺害され、多くの組織が今も活動を続けています。麻薬組織の暴力性や資金力の潤沢さ以上に、警察と麻薬組織が持ちつ持たれつの関係にあることが問題なのです。この関係は地方ではより顕著になります」 メキシコ国内の麻薬組織がここまで巨大化した背景には、市場経済の需要と供給における「負の部分」が大きく起因しています。 アメリカは世界最大の麻薬消費国としても知られていますが、国内で消費される麻薬の多くは隣接するメキシコから密輸されており、米国務省はアメリカ国内に密輸されるコカインの約90パーセントはメキシコ経由であると発表しています。また、覚醒剤の一種であるメタンフェタミンやマリファナの密輸でも、メキシコは供給国として大きな役割を果たしており、メキシコの麻薬カルテルはアメリカ国内への密輸ビジネスだけで年間最大29億ドルを稼ぎ出しています(米国土安全保障省調べ)。29億ドルはパラグアイやボリビアのGDPに匹敵します。メキシコの麻薬組織の撲滅にはアメリカ政府も援助を行っていますが、一番の問題はアメリカ国内の麻薬消費にあるのではないでしょうか。 (ジャーナリスト・仲野博文)