元熱血球児の教員が「5時退勤」にこだわるワケ 1人だけ定時に帰ろうとしても長続きしない
プロ選手は力を発揮するために頑張りすぎない
「#もう5時っすよ」とX(旧ツイッター)でつぶやき続けている公立小学校教員の「こう先生」は、毎日午後5時になると大きな声で「お先に失礼します」とあいさつして職員室を出る。「結局、定時退勤が子どもたちのためになる」などの著書もあるこう先生は、なぜ定時での退勤にこだわるのか。どうしたら定時に帰ることができるのか話を聞いた。 【写真を見る】定時で帰る働き方を発信しているこう先生 ――なぜ定時退勤が大事だと考えているのでしょうか。 教師になって、まず思ったのは「先生の仕事って、こんなに忙しいんだ」ということ。会議や諸々の雑務で、本来の仕事であるはずの授業準備や教材研究にあまり時間をかけることができませんでした。 「時間が足りない」と焦りながら仕事をしていると、心の余裕が失われていき、子どもたちのささいな行動に対して、感情的に反応してしまいました。先生がそのような状態では、クラスがうまくいくわけがありません。子どもたちを笑顔にさせるには、教師の心の余裕が必要だと思いました。 ――頑張りすぎないことが大事なのですね。 私はプロ野球選手を目指していたこともあり、学生時代は、がむしゃらに練習するタイプでした。しかし、練習も試合も120%でプレーをしようとしても身体がついていかず、肩やひじ、腰などあちこちに故障を抱え、全身ボロボロの状態になりました。 そんなある日、プロ野球の球団スカウトの方から「プロ選手は力を発揮するために、あえて頑張りすぎないようにしている。君はもっと力を抜くことを覚えたほうがいい」とアドバイスされました。 そこで練習量を調整し、試合でも空回りしないように力を抜いてプレーすることを心がけてみると、結果がついてくるようになりました。全力で頑張ることは悪いことではありませんが、それがすべてではないのです。
コロナ禍をきっかけに定時退勤を開始
――どのようなきっかけで定時退勤を始めたのですか。 最初のうちは、ほかの先生方にならって忙しく仕事をしていました。とくに行事の準備は大変でした。例えば運動会の前には、3カ月ほど前から学年の先生と計画を立て、団体演技のダンスの振り付けや演出を考えたり、当日までの練習の流れを考えたりしていました。 そうした行事がコロナ禍で一気になくなったことは、仕事のやり方を見つめ直すきっかけになりました。定時に帰ると決めてみると、子どものささいな行動を許せる心の余裕が生まれ、子どもたちの笑顔も増えました。今、定時退勤は『子どもたちのために』という教師本来の目的にかなうことだと確信しています。 ――定時に帰るためにどんなことをしていますか。 私は、ICTを活用して、打ち合わせや連絡などの業務、授業準備を効率化しています。コロナ下で1人1台端末が導入されたことも追い風になりました。手書きのノートをタブレット端末に換えることで、長期を見通した授業の準備もやりやすくなりました。 ――授業の組み立てにも工夫をする余裕が生まれそうですね。 私は、核となる単元に子どもたちが楽しんでくれそうなゴールを設定し、授業自体がワクワクするイベントのようになるよう意識しています。 例えば、国語では「下級生に向けた物語文のCM動画を制作する」というゴールを設定しました。すると、子どもたちは、どのような演出にするか、どの場面を取り上げるかなどいきいきと活動するようになりました。 このようなゴールを設定すると、子どもたちは、必然的に物語を何回も読み、登場人物の気持ちの変化などを理解しようとします。できあがった成果物はクラス外に発信すると、子どもたちのモチベーションはさらに高まります。 ――コロナ後は学校行事も復活してきています。 その行事を行う目的を改めて職員の中で話し合って考えていくことが大切だと思います。子どもたちの成長と仕事量のバランスを考えながら、時間対効果(タイムパフォーマンス)の高いものを選択していきたいですね。