【ステイヤーズS回顧】シュヴァリエローズが重賞連勝を達成 北村友一騎手の柔軟性が光る
競馬が芸術だと思う瞬間
競馬が芸術だと思う瞬間はいくつもあるが、その最たるがゴールの瞬間だ。1、2km先から馬を走らせ、ゴール板でハナ、クビの接戦になる仕組みが未だに分からない。なぜ、それだけの距離を走って数センチしか差がないのか。これほど際どい勝負を毎回重ねる競技をほかに知らない。 【チャンピオンズカップ2024 推奨馬】勝率66.7%に該当で信頼度◎! 国内は連対率100%で盤石(SPAIA) ステイヤーズSは3600mの長距離戦。いわばマラソンだ。人間のマラソンでゴールテープを数センチ差で通過することが果たしてどれほどあるのか。1着シュヴァリエローズと2着シルブロンはハナ差。シャッターカメラでは判別できないほどの超がつく大接戦だった。 1986年以降のステイヤーズSでハナ差だったのは今年も含め3回。過去2回は1998年1着インターフラッグ、2着アラバンサ、2002年1着ホットシークレット、2着ダイタクバートラム。どちらも4コーナーで前だった馬が勝った。粘るのと追い上げるのでは、勢いは後者が上でも、軍配は前者にあがることが多い。後ろから差し切るなら、はっきり前に出るほどの脚力が必要になる。 今回の勝負もまた、4コーナーではシュヴァリエローズ2番手に対し、シルブロン8番手。勝因のひとつは前にいたことだろう。ましてマラソンレースなら、勝負圏内はレースが進むにつれ、どんどん絞られていく。1周目、2周目とも向正面でインの3、4番手につけたシュヴァリエローズは最後まで勝負圏内から離されなかった。 京都大賞典で末脚を発揮したにもかかわらず、距離を考え前へ行った。舞台に合わせた柔軟性が北村友一騎手の強みであり、それに応えるシュヴァリエローズの充実度が光った。
穴種牡馬トーセンジョーダン
中山の馬場を約2周するマラソンレースは例年以上に淡々と流れた。昨年勝ち馬アイアンバローズが先手を主張したため、後ろは動きづらかったからだ。最初の1000m1:04.3。次が1:04.7。この時点で好位にいないとどうにもならない。最近の長距離戦は道中で動きがあるレースも増えたが、本レースはそれ以上に長く、実に動きにくい。 レースが動いたのは、残り1200mから。2周目向正面を進むあたりで13.3から12.2とアイアンバローズがギアをあげた。ここから11.9-11.7-11.8-11.5と坂下まで加速していけば、耐久力がない馬は落ちていく。 ライバルの手応えが4コーナーにかけて悪化するなか、抜け出してきたシュヴァリエローズは長距離適性が高い。2000m前後を使われ、2400、2500mに距離を延ばして成績があがった理由もここにある。進むべき道がようやく明確になった一戦だ。 こう振り返るほど、勝負圏外から飛んできたシルブロンも価値がある。ほぼノーチャンスの中団にいて、なおかつ勝負所で先を急がず、仕掛けを待ったのは憎いかぎり。マーカンド騎手の導きも大きい。昨年のダイヤモンドS1番人気3着を覚えていれば、狙えた馬。単勝万馬券でほぼ同時にゴール板に入り、ハナ差2着。単勝馬券をもって写真判定を見守り、崩れ落ちた人には同情しかない。 馬体重が安定せず、成績にムラがあるものの、今回も含め500kg台だと【1-1-1-3】と結果が出る。長距離と500kg以上が好走のサイン。成績が安定せず、人気に推されにくい穴馬気質だけにサインを逃したくない。 トーセンジョーダン産駒は今回も含めJRA重賞【0-2-2-9】。産駒の重賞初制覇の大チャンスだった。重賞で馬券に絡んだ4頭は12、13、1、13番人気。4回中3回は単勝万馬券。重賞で複勝ベタ買いなら儲かる穴種牡馬だ。 1、2着はともに6歳。今年、この世代は平地重賞18勝。GⅠは香港ロマンチックウォリアーを含め6勝している。ペプチドナイル、テーオーロイヤル、テンハッピーローズ、ソウルラッシュ、レモンポップとすべて異なる馬でもあり、多彩な世代だ。 3着ダンディズムは8歳にして福島記念、ステイヤーズS3着と成績が安定してきた。若い頃はムラ馬だったのが信じられない。 安定を支えるのが自力勝負に出られるようになったこと。福島記念もハイペースをまくり、今回はスローを好位で立ち回った。勝負圏内に入る強さを証明する一頭だ。その変貌ぶりはいつまで続くのか。いけるところまでいってほしい。 ライタープロフィール 勝木 淳 競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースエキスパートを務める。『アイドルホース列伝 超 1949-2024』(星海社新書)に寄稿。
勝木淳