「血まみれになって前歯が3本も抜けた」…施設介護の90歳の母が病院で受けていた「衝撃的な措置」
2015年に厚生労働省が出した統計によれば、日本人が亡くなった場所は病院、自宅の次に、「介護施設」が多くなっている。治療に特化した病院でもなく、住み慣れた自宅でもない「介護施設」で亡くなるとはどういうことなのか。 【漫画】くも膜下出血で倒れた夫を介護しながら高齢義母と同居する50代女性のリアル 介護アドバイザーとして活躍し、介護施設で看・介護部長も務めた筆者が、終末期の入居者や家族の実例を交えながら介護施設の舞台裏を語る『生活支援の場のターミナルケア 介護施設で死ぬということ』(髙口光子著)より、介護施設の実態に迫っていこう。 『生活支援の場のターミナルケア 介護施設で死ぬということ』連載第24回 『「すぐに救急車を呼んで!」「決して呼ばないで」…背反する家族の意向。倒れる前に決めておきたい「最期の対応」』より続く
「尊厳」のための抵抗
千代子さんは90歳を過ぎたひょうきんなおばあちゃんです。 あるときみぞおちのあたりの痛みを強く訴えて病院に行き、膵臓がんと診断されて入院しました。しばらくして職員がお見舞いに行くと、つなぎの服を着せられて手にはミトンをかぶせられ、ベッドに縛りつけられていました。まるで別人のようで、 「あんなの千代子さんじゃない」 と、お見舞いから戻ってきた職員は泣きながら訴えました。 聞けば、千代子さんが自分で点滴を抜こうとしたり、ベッドから起き上がって歩こうとしたりするので、それを防ぐための処置でした。それでも千代子さんは抵抗し、かぶせられたミトンを食い破ろうとしました。歯茎が弱っているから、口が血まみれになって前歯が3本欠け落ちました。それでも外してはもらえませんでした。
「治療」より大切なこと
その姿を見るに見かねた2人の娘さんたちは、 「90歳を過ぎた親が、縛られてまで受けなければならない治療があるのでしょうか。これ以上母のそんな姿は見たくないです」 と言い、病院の主治医に退院を願い出ました。そして、千代子さんは必要最低限の薬を処方されて施設に戻ってきました。 病院では「403号室のがんの患者さん」の千代子さんでしたが、施設に帰ると誰もが、仲良しでひょうきんな「千代子さん」として名前で呼んでくれます。千代子さんはそれがうれしくてたまらないようで、病院ではしなくなっていた返事をしてくれました。施設では身体拘束からも解放され、病院ではボーッとしていた千代子さんの表情が、少しずつ以前の千代子さんに戻ってきて、笑顔も出るようになりました。 『「いやだ!病院で手足が縛られるのはもういや!」…施設入居者の家族に問われる覚悟「病院で“治療”するか、施設で“尊厳”を守るか」』へ続く
髙口 光子(理学療法士・介護支援専門員・介護福祉士・現:介護アドバイザー/「元気がでる介護研究所」代表)
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